円、史上最高値(対ドル)を前にして・・・

2010年10月16日 14:34

円ドル為替レートは80円/ドル台に入り、本格的に史上最高値(79.75円ドル、95年)を窺う展開になっています。経済ファンダメンタルズ(金利(通貨量)、物価予想、貿易状況、対外資産負債残高など)でいえば、さらなる(対ドルでは)円高になる可能性の方が高いわけですから、ここからの話題は日本政府による為替介入の有無だけ。とはいえ、先日、韓国の為替介入を批判したばかりであり、タイミングとしては難しいでしょう。また、中国人民元のさらなる切り上げを要請したい欧米との連携という意味でも、ここで円売りドル買い介入を行えば、国際的に「批判の的」となるのは明らかです。

ということから、「(為替介入を)やるぞ」というファイティングポーズを取りつつ、実際には何もしないで「何とか逃げ切りたい」というのが、日本政府の本音なのではないでしょうか(というか、明らかにそう見えます)。

前田拓生のTwitterブログ


そのような中、バーナンキ米FRB議長が「さらなる金融緩和」に言及をしています。まぁ、市場では以前から米国が「さらに大胆な金融緩和を行うだろう」とみていたので“今更”ではあるものの、ここからの「さらなる金融緩和」ということは、完全に量的緩和に踏み込むことを意味するだけに、来週以降、いろいろな思惑が交差しそうな感じです。とすれば、次回FOMCは11月2日・3日ですから、ここから2週間以上も米国の金融緩和期待が続くことになります。

その意味では、また、日銀への風当たりが強くなりそうです。

日銀としては先日(10/5)、「包括緩和」として、ギリギリで金利政策に位置づけられる「ゼロ金利」を復活し、5兆円の金融商品購入ファンドを創設したわけですから「かなり踏み込んだ政策を実施した」と思っているはずです。が、批判的な論者の中には「現在の円高を考えれば、日銀の緩和政策が甘いということ。もっと踏み込むべき」という話をする人がいます。この急激な「円高」という現象だけをみれば、確かに一理あり、米国が量的緩和に踏み込むのであれば、日本としても「さらに踏み込んだ政策を打ち出す必要がある」ともいえます。

しかし、金融的な措置という意味では、ここからの緩和、特に「量的緩和」は、経済的なボラティリティを高めるだけであり、有効な手立てであるようには思えません。

リーマンショック直後の状態であれば、各主体がこぞって流動性の確保に走ったことから過剰な緩和が求められたのですが、現時点のように信用不安が去った状態で、しかも、経済実体からの資金需要がない状態では、財やサービス市場には資金が流れ込まないので、ハイパワードマネーをジャブジャブにしても、「だから」といって、財やサービスの取引量が増加することはありません。そもそも量的緩和というのは、中央銀行が関与できない資金を市場に大量にばらまくことであり、後は「市場にお任せ」という、ある種、無責任な政策なのです。このような政策は、現在のようなグローバル化が進んだ世界経済の場合、余分になった資金はホームレスマネー(利を求めて世界中を彷徨っているおカネ)となり、世界のあちこちで投機的な行動によって、経済を混乱させるだけなのです。実際、現状、途上国ではバブル的な状態になりつつあるといわれています。

このように不測の事態をもたらす政策だけにバーナンキさんも「政策金利がゼロであっても追加緩和は可能だが、コストを計算しながら使うかどうかを判断しなければならない」と述べ、量的緩和については「実施するか否か」も含め、現在考慮中であることを表明しています。つまり、今回のバーナンキさんの話は、実際には“本当の意味での量的緩和”には踏み込まずに、単に「市場の(緩和)期待だけを高めたい」ということなのかもしれません。

とはいえ、その期待は非常に大きいので、ドル安円高の傾向は続くことになるでしょう。しかも、日本政府がここで介入をしたとしても、1回は80円/ドルを防衛することができるかもしれませんが、「これ」といって手があるわけではないので、基調を変えることはできないでしょう。

強いて焦点となり得るのは10月28日の日銀政策決定会合でしょう。が、ここで日銀がどのような政策を出しても、後出しのFOMCによる決定により意味を失うでしょうし、“本当の意味での量的緩和”に踏み込むほど日銀は愚かではないでしょう(仮に実施するにしても“何ちゃって量的緩和”という程度の緩和政策になると思われます)。生真面目な日銀は量的緩和を否定するとともに、経済学的な正論を述べるに終始することから、次回FOMCが終わる11月3日までは米国のさらなる金融緩和期待からのドル安円高が続くことになるわけです。

以上から、今回のバーナンキさんのコメントは(結果として量的緩和に「踏み切る/踏み切らない」に関わらず)、非常に効率の良い“口先介入”であるといえます。

(意識しているか否かは別としても)この辺りの戦略的な為替政策を、日本の政府・金融当局は良く研究し、見習ってほしいものです。「適切な時期に適切な行動」などという脅しだけでは、市場と付き合っていくことはできません。

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