動きだす「税と社会保障の抜本改革」、世代間公平の視点も反映を

小黒 一正

民主党は、2010年10月上旬、税制と社会保障制度の抜本改革を一体的に推進するため、官邸に政府・与党による実現会議を設置するとともに、党内議論については中間整理を年内に出してもらい、一定の論点整理ができた段階では野党にも参加を呼びかける意向を述べた。


また、自民党は、財政健全化法案の制定や「財政再建に関する特別委員会」の設置を呼びかけており、税・社会保障の改革プランを年内にも提示する旨の発表を行っている。

こうした動きは、いよいよ本格的に、超党派での議論も視野に、税・社会保障の抜本改革の議論が始まるという意味で期待をしたいが、一つだけ注文をつけておきたい。

というのは、おおむね2年前、自・公連立政権でも、社会保障のあるべき姿について、国民に分かりやすい議論を行うことを目的として、2008年1月の閣議決定により「社会保障国民会議」を設置し、同年11月には最終報告をまとめている。

同報告書では、「社会保障の制度設計に際しての基本的な考え方」として、 7つの視点を言及している。具体的には、(1) 自立と共生・社会的公正の実現、(2) 持続可能性の確保・国民の多様な生き方の尊重、(3) 効率性・透明性、(4) 公私の役割分担・地域社会の協働 、(5) 社会経済の進歩・技術革新の成果の国民への還元、(6) 給付と負担の透明化を通じた制度に対する信頼、国民の合意・納得の形成、(7) 当事者として国民全体が社会保障を支えるという視点の明確化である。

これら7つの視点は確かに重要であるが、「世代間公平」の視点はまったく言及されていない。この背景には、少子高齢化の進展による「シルバー民主主義」の強まりによって、若い世代の声があまり政治に届いていない一因もあろう。
拙書「2020年、日本が破綻する日」(日経プレミアシリーズ)で強調しているように、財政・社会保障の再生にとって最も重要な視点は、財政・社会保障(年金・医療・介護)の持続可能性を高めるとともに、世代間格差の是正を図ることである。

「2005年版 年次経済財政報告」(内閣府)で公表された世代会計によると、60歳以上の世代と将来世代(20歳未満の世代とまだ生まれていない世代)との間には約9500万円もの世代間格差があることが明らかにされている。しかも、最近、民間等で推計されている世代会計によると、この世代間格差はさらに拡大しているとの報告も多い。

新卒の内定率低下に代表されるように、いま若い世代の雇用は急速に悪化している。その上、若い世代や将来世代は、財政赤字や賦課方式の社会保障によって、過重な負担を押し付けられている。次世代を担う若い世代の活力を取り戻すためにも、税・社会保障の抜本改革の検討にあたっては、「世代間公平」の視点も反映してほしい。