高額所得者狙い撃ち増税で税収は確実に減る - 藤沢数希

2010年11月04日 01:49

民主党は年収2000万円以上に対して給与所得控除を無くすことによって、高額所得者に対する狙い撃ち増税を検討しているようである。サラリーマンは自営業者や個人事業主と違い経費を自分で計算して申告することは認められていないが、そのかわり所得に対して一律に何%かはみなし経費として控除される。控除の割合は年収が増えるほど下がるが、年収1000万円以上で定率の5%になる。つまり高額所得者は年収の5%は経費として認められ、その分は所得税を払わないくてもよいのである。逆にいえば高給サラリーマンはたった5%しか経費が認められていないのである。会社でいえば営業利益率95%を「強制」されいてるのだ。民主党はそれさえも廃止しようとしているのだ。

参考
政府税調、給与所得控除の上限検討 2000万円超を軸に課税強化、産経


財務省もいっているように、年収2000万円超の人は給与所得者の0.4%しかおらず、もし仮にこの増税によって給与所得者の行動に全く変化がないというナイーブな仮定をしたとしても、税収増はほとんどない。また現在年収2000万円超の人はどういう人達か考えてみると、この0.4%の中でおそらく多いのは中小企業で経営に近い人たちだろう。また国際的なファームで活躍する弁護士や会計士、コンサルタントなども2000万円を超える所得を得ている。前者は、給与所得が税制上不利になったら、他の手段でお金を受け取るので、今回の変更で税収増は見込めないだろう。法人税が減税されるようなので、会社の利益の方に回るだけだ。後者のようなグローバルに活躍するサラリーマンは税制が不利になれば、香港やシンガポールのオフィスに移籍する圧力がさらに高まるだろう。みんな誤解しているのだが、高額所得者が税金が高いからといって自らの意志で海外に移住することは今のところそれほど多くない。なんだかんだいってみんな住み慣れた国がすきだからだ。多くの場合、多国籍企業の内部で、会社の方針で拠点が変わることによって、みんな海外に引っ越すのである。この数年の間に、外資系金融の業界では多くの日本人が香港やシンガポールに転勤した。彼らは香港やシンガポールから日本の顧客相手に日本の仕事をしていたりする。もちろん彼らの所得税は香港政府やシンガポール政府に支払われる。また日本の所得税の最高税率があがることによって、外資系企業が日本に進出する数も減るだろう。こういった企業で意思決定している幹部はみな高額所得者なので、日本の業務の多くも香港から行えるということになれば、わざわざ拠点を東京に置いて高い税金を払おうなんて思わない。

要するに何がいいたかったかというと、高額所得者の狙い撃ち増税によって高い確率で税収は減るし、人材の流出などの影響を考えれば日本国民全体の不利益になるだろうということだ。しかし財務省の人たちもそんなことは百も承知なのだろう。税収を増やすことが必要だったら消費税を上げるしかない。しかし民主党が次の選挙で負けないために消費税を上げることは禁止されているので、その制約条件の中で増税しようとしているから、このようにおかしな税制が次から次に出てくるのだ。

日本というのは民主主義国家で、政治に民意が反映されなければいけない。それは多数決でものごとを決めていくことだ。よって民主主義というのは多数派が少数派を搾取する仕組みになりがちであり、絶対的に少数である金持ちが常に搾取の対象であることは間違いない。多くの人が自らの幸せを願っているし、合法的な範囲で自らの利益を追求することは何ら責められるものではない。だから高額所得者に懲罰的な税を課している現状、そしてさらにもっと重い税を課そうとするその姿勢は正統なものだ。誰だって社会福祉や公共事業のコストを負担したくないし、それらのインフラにタダ乗りしたいと思っている。

しかし搾取にも限界がある。奴隷だって満足な食事も与えずに搾取しすぎるとはやく死んでしまうように。ラッファー・カーブの考察からわかるように、税率を上げていくとあるところで税収が減っていくというポイントがある。税率が高すぎると労働意欲が削がれるし、海外に出ていったり、租税回避のためのさまざまな仕組みが開発されるからだ。そして日本の高額所得者に対する課税はすでに世界最高水準で、ラッファー・カーブの山の右側にいると思われる。それゆえ民主党政権の金持ち狙い撃ち増税は、多数派の国民の利益を、税制というゼロサム・ゲームで最大化しようという経済合理性を超えたところに説明を求める必要があろう。

これ以上高額所得者への課税を増やしても多くの国民の生活水準があがる可能性は極めて少ない。しかしそれでも国民の多くは金持ちへの増税を支持しているのかもしれない。たとえ自らの物理的な生活水準が低下し、日本という国の国際的な地位がますます低下するということがわかっていたとしても、同じ国にすむ経済的な成功者に重税を課すことよって、多少なりとも自らのルサンチマンを癒し、安らかな時を過ごすことができるというのならば、それもひとつの「民意」として受け止めなければいけないのかもしれない。

民主党政権は以前にも年収が2000万円以上の家庭への子供手当ての支給を止めることを検討していた。そのための膨大な事務コストを考えたらかえって負担が増えるということが明らかだったにもかかわらずだ。これだけ株価が低迷して、アジアの金融センターの地位を香港にどんどん奪われているにもかかわらず証券優遇税制を廃止するという。こういった税制は金持ち優遇だからという理由だ。

民主主義と堕落したポピュリズムは紙一重であるが、それでも民主主義政治というのは様々な欠陥を抱えながらも人類が今までに試してきたあらゆる政治システムよりすぐれいるというのは事実だ。しかしここまで人間の後ろ暗い感情に阿る民主党政権に筆者は大きな不安を感じているのである。成功者を引きずり下ろして平等に貧していくより、どうしたらみんながもっと豊かになれるのかということを民主党の政治家たちは考えてくれないのだろうか。

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