二つの「量的緩和」- 桜内文城

2010年11月14日 23:01

命題1:財政スタンス(財政赤字の累積額)が一定である限り、中央銀行がどれだけバランスシートを拡大させても、民間金融機関の貸出が増加しないならば、マネー・ストック(貨幣供給量)は増大しない。


上記の命題1には重要な前提条件が隠されている。その前提条件とは、中央銀行のオペレーション(資産の売買)の相手方を民間金融機関に限定する、言い換えれば、中央銀行は中央銀行システム(中央銀行及び民間金融機関)の内部取引のみ行うという意味で、あくまでも伝統的な金融政策の枠内に留まるということである。

実は、この隠された前提条件を守るか否かによって、政府の財政スタンスが一定、民間金融機関の貸出が一定の場合に命題1が成立するか否か、すなわち、中央銀行のバランスシートの拡大がマネー・ストック(貨幣供給量)の増大をもたらすか否かが決まる。

2001年3月から2006年3月にかけて日銀が実施し、自ら「量的緩和」と呼ぶ「超過準備ターゲット」政策は、この隠された前提条件を忠実に守った実例である。日銀は、民間金融機関に義務付けられた預金準備率を大幅に超過する日銀当座預金残高を政策目標とした。しかし、「超過準備ターゲット」政策では、日銀のベースマネー(日銀券発行残高+日銀当座預金残高)は拡大するものの、民間金融機関から市中への貸出・投資は必ずしも増加しない。

これを会計的にみると、民間金融機関の資産(国債や貸付金など)が日銀当座預金に置き換わるだけで、日銀のベースマネーと市中に流通するマネーストック(貨幣供給量)の関係、すなわち信用乗数は日銀のベースマネーの伸びに反比例して低下する。

実際、日銀のバランスシートは巨大化し、ベースマネーもほぼ倍増したが、民間金融機関の側ではむしろ不良債権処理のために貸付金の回収(俗にいう貸し渋り)が多発し、その間、市中に流通するマネーストック(貨幣供給量)はほとんど増加しなかったことが統計的にも確認されている。

では、隠された前提条件を守らない場合、すなわち中央銀行がオペレーション(資産の売買)の相手方を民間金融機関に限定することなく、中央銀行システム(中央銀行及び民間金融機関)の外部にある非金融法人企業等から幅広い範囲の資産(国債、REIT、ETF、株式等)を買入れる非伝統的な金融政策に踏み込む場合はどうか。

この場合、政府の財政スタンスが一定、民間金融機関の貸出が一定であっても、中央銀行のベースマネーの拡大に伴い、マネー・ストック(貨幣供給量)が増加する。これは、あらゆる取引・会計事象を複式処理(仕訳)することによって得られる社会会計上の論理的帰結である。

現在、筆者は参議院議員(みんなの党)として日銀法改正を含む政策立案や法案作成を担当しているが、元来、そのような政策や法案を支えるロジックとしての公会計、社会会計を専門とする学者の端くれである。社会会計の論理的帰結としては、命題1はより一般的な命題2に書き換えられなければならない。

命題2:中央銀行システム(中央銀行及び民間金融機関)から外部に対する貸出が増加しないならば、マネー・ストック(貨幣供給量)は増大しない。

二つの「量的緩和」がある。一つは2000年代前半に日銀が実施した「超過準備ターゲット」としての「量的緩和」。社会会計の論理的帰結としても、現実の結果としても、マネー・ストック(貨幣供給量)は増大しないことが確かめられた。もう一つの「量的緩和」は、非伝統的な金融政策の領域に踏み込む。現在、政策論として問われているのは後者の「量的緩和」の是非である。

2010年10月5日、日銀の金融政策決定会合で創設されることとなった「基金」は、その買入資産の範囲(国債、REIT、ETF等)の広さ、国債購入限度額(銀行券ルール)の撤廃等、2000年代前半の「量的緩和」とは異なり、現実にマネー・ストック(貨幣供給量)を増大させる非伝統的な金融政策に第一歩を踏み出したものと評価できる。

本来、このような非伝統的な金融政策は、政策金融または財政政策(中央銀行による直接的な財政ファイナンス)の領域に踏み出すものであるから、買入資産の範囲や基金の規模については、日銀というよりも、政府が意思決定の権限と責任を持つことを明示すべきである。

政策論・立法論としては、政府と日銀との間でアコードを締結することにより、政府が基金の設置、買入資産の範囲、基金の規模等について意思決定し、日銀が実際のオペレーションを担当するとともに、基金に政府保証を付すこと等により、その責任を明らかにすることも検討に値すると考える。

(桜内文城 参議院議員(みんなの党)tweitter:@fsakura)

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