アメリカの量的緩和第2弾、略してQE2の実施が始まった。大胆な金融緩和を続けていたFRB(アメリカの中央銀行)がさらに6000億ドルほど長期国債などを市場から購入するのである。50兆円分ほどのドル紙幣を新たに刷って、金融機関が保有しているアメリカ国債などをFRBが買っていく。これまでの量的緩和でFRBのバランスシートはふくれあがっているが、さらに大きくしようというのである。しかしドルを刷るといっても、もちろんそれらのドルをただで配るわけではない。アメリカの民間の銀行が持っている国債をFRBがドルを刷って買うだけであり、量的緩和で国債を現金に置き換えてもらった民間の銀行が実際に民間企業への貸し出しなどを増やすかどうかはまた別の問題である。このように金融システムの内側にじゃぶじゃぶにお金を供給したところで、実体経済にどの程度影響を与えられるかは定かではない。
アメリカがこのように大胆な金融緩和を実施ているのに、日銀は一向に金融緩和をしないと一部の経済学者が非難している。筆者はそれもひとつの意見として尊重したいと思っているが、世間で見かける日銀批判には誤解を招くものも少なくない。そこで今回は、これらの量的緩和の日米の規模を具体的な数値で比較することにする。以下は、日米の中央銀行のバランスシートの規模の推移である。
FRBの総資産の推移
出所:FRBのウェブ・サイトより筆者作成。
日銀の総資産の推移
出所:日銀のウェブ・サイトより筆者作成。
金融危機以降のFRBの総資産はたしかに3倍ほどに跳ね上がった。逆に日銀の総資産は量的緩和を大々的に実施していたピークから比べるとむしろ減少している。一部の経済学者は、この日銀の量的緩和への消極的な姿勢を厳しく批判している。日銀は基本的にはゼロ金利の環境で量的緩和をしても何も効果がないと思っているので、このようにバランスシートをむしろ縮小させたのだろうと推測される。たしかにアメリカの量的緩和に合わせて日銀ももっと積極的に量的緩和を実施するべきだったという議論も当然あってしかるべきだ。量的緩和が効くのかどうかという議論は、経済学者の間でもそれこそ百家争鳴なのだけれど、筆者はそのことについてここでは議論しない。
しかし筆者がここではっきりと述べておきたいことは、アメリカはとんでもない量的緩和をしているように思われているが、規模としてはようやく日銀に少しだけ追いついてきたという程度だということである。FRBのバランスシートの大きさは2.3兆ドル程度で、日本円にすると190兆円ほどである。日銀のバランスシートは120兆円ほどだ。アメリカのGDPが1200兆円ほどで、日本のGDPが500兆円ほどなので、GDP比で考えると、FRBのバランスシートは190÷1200=16%、日銀のバランスシートは120÷500=24%となるのである。
アメリカの量的緩和はまだまだ日銀の量的緩和の7割にも達していないのだ。日銀は世界初のゼロ金利政策、そして世界初の量的緩和を実施してきた。いずれも過去に例を見ない金融緩和であった。それでも日銀が十分な金融緩和を行わなかった結果、日本が長期のデフレに陥り、日本経済が苦境に追い込まれたという可能性はありえる。よって一部の経済学者が日銀の不十分な金融政策を批判している。このような批判が正しいのかどうかはさておき、こういう議論を聞く人は、日銀は世界の中で圧倒的に一番金融緩和をしてきたけれど、さらにもっと圧倒的に金融緩和をするべきだったのかどうかという議論をしているということを認識する必要がある。金利やバランスシートの大きさから考えれば、この20年以上日本は世界で圧倒的に一番緩和的な金融政策を行なってきたのである。
コメント
量的緩和のGNP比については、日本の方が大きいのは確かですが、緩和のタイミングについては如何でしょうか?
FRBはバブル崩壊に備えて、日本のバブル崩壊後の対応を充分研究し、日本の轍を踏まぬよう政策を練っていたと言われます。それ故リーマンショック後の間髪を入れぬ緩和が可能となったのでしょう。
日本の場合も漸進的緩和ではなく一挙に大胆にやっていれば、その後の展開も少しは違っていたとは思われませんか?