「社会保障国民会議」ができ、高市首相も「給付と負担のあり方について、全世代を通じて納得感が得られる社会保障の構築に向けた国民的な議論を進める」という姿勢を見せたが、具体案は何もない。それどころか社会保障の財源となる消費税を減税するというのだから、何をかいわんやである。
1000兆円の「簿外債務」を誰が返すのか
本書は社会保障についての入門書だが、著者独自の見解もある。それは現在の賦課方式の年金は時間をかけて積立方式に移行すべきだという提案だ。これは経済学者の多数説だが、厚労省は権丈善一氏の「年金は賦課方式しかありえない」という立場である。
これはある意味では正しい。図のように賦課方式の財源と給付を1対1に対応させると、年金債務2300兆円のうち過去に払った債務1280兆円を除く将来の支払い(年金純債務)が1020兆円もあるからだ。これは一般会計の政府債務1300兆円とは別の簿外債務であり、将来の保険料で返さなくてはならない。

今から積立方式に移行すると、現役世代は自分の将来受け取る年金を積み立てる他に、現在の老人に賦課方式の年金1020兆円を払う二重の負担が発生する。これは政治的に不可能だというのが厚労省の論理である。
著者の提案は、この年金純債務1020兆円を国鉄民営化のときのように年金清算事業団として切り離せば、現役世代は民営化されたJR各社のように年金債務から解放され、自分の受け取る年金だけを積み立てればいい――というのだが、これには疑問がある。
社会保障債務は消費増税で返済するしかない
それはこの莫大な債務を誰が負担するのかという問題である。国鉄が1987年に民営化されたときの債務は37兆円だったが、国鉄の保有資産を売却して返済し、40年たった今でも15兆円が残っている。1000兆円もの債務をどうやって清算するのか。
これは国鉄のように資産売却などではとても返済できないので、税で返済するしかないが、理論的には年金純債務をすべて税で負担すると、年金保険料が税に置き換わるだけで国民全体の負担は変わらない。
著者は最低保障年金のような形で基礎年金を税方式にすることを提案している。2階部分の厚生年金を積立方式にし、1階の基礎年金を増税すれば年金純債務を返済できるというが、二重の負担の部分は(たとえば)50年かけて分割払いしなければならない。
その財源はどうするのか。著者は消費税減税シンポジウムに参加して「消費税を廃止すべきだ」と言っているが、消費税なしで1000兆円もの財源がまかなえると思っているのだろうか。
1000兆円を50年で割ると(金利ゼロとしても)毎年20兆円の財源が必要だ。こんな規模の税は消費税以外には考えられない。著者の提案している相続税の強化などでは、年数兆円が限度である。
この清算事業団は、消費増税の根拠になる。消費税率を20%に上げれば毎年25兆円の財源が出るので、50年で清算できる。もちろんこれには政治的な反対が強いから、増税で足りない分は政府資産を売却すればいい。
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は270兆円の資産をもっている。これを使って年金純債務を軽減すれば、現役世代の未来は明るくなるだろう。








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