『電子書籍の正体』の正体??

田代 真人

先般、なんだかおどろおどろしい『電子書籍の正体』というタイトルのムックが発刊された。出版社は宝島社。これは有名な『別冊宝島』シリーズとして発刊されたのだが、一通り読んだのでレビューを書いておきたい。

まず、さっと読んだところ、とにかく“電子書籍に対してネガティブな姿勢からものを語ってみよう”というスタンスがありありと見受けられる。「はじめに」では「本書では、大きな注目を一手に集めた2010年版電子書籍ブームも『やっぱり儲からない』という現状を、多角的な面から検証した」と表明しているので、“やっぱり儲からない”が前提なのである。まぁ、ディベイトする際の己の立ち位置を最初に決めて議論を進めよう、ということなのだろう。


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内容は「電子書籍は儲からない」という方向に大きくぶれていること以外は、まぁ、間違ったことは書いていないと思う。ぶれていることに関しては、良いほうに捉えると、世の中が電子書籍礼賛ブームなので真逆の方向に振れて、流れを中立にもっていこうという意図にも解釈できる。しかし、同時にこの書籍の宣伝として新聞各紙に「宝島社は、電子書籍に反対です。」という意見広告とも取れるコピーを掲載した。

まぁ、これは本音でも嘘でもないのだろう。付録攻勢で収益を上げる宝島社にとって、書店の協力は不可欠。であれば、電子書籍ブームで不安になっている書店に対して「どんなに他社が電子書籍を発行して書店抜きの商売をやったとしても宝島社だけは、ちゃんと紙の本を出して、書店の仕事をなくすことはしませんよ」というメッセージともいえる。だから、『電子書籍の正体』(と付録本)をばんばん売って、書店さん、いっしょに生き残りましょう!と呼びかけているのである。

宝島社だって電子書籍が儲かればいずれは参入するだろう。だが「いまは」やらない。儲からないからである。だからこの書籍はなぜ宝島社がやらないのかを解説した本なのである。わざわざ作家の宮部みゆき氏や『Twitter社会論』著者・津田大介氏などにもインタビューして、ちゃんと(ネガティブな)本音を引き出している。作家はたいてい紙書籍へのノスタルジックな想いをもっていると思うが、宮部氏にそれを語らせている。

拙著『電子書籍元年』もネガティブだと言われもしたが、このムックを読んで「なーんだ、やっぱり電子書籍って普及しないんだ」と思うのもいいだろう。ただ、業界関係者には、それだけで終わりにしてほしくない。ぜひその先を考えてほしいと思う。「儲からないからなんなんだ?」というわけである。正確に言うと「電子書籍は(いまは)儲からない」というだけだ。

しかしだから電子書籍をやらないのか? いや、そうではないだろう。今後、電子書籍に関してなにもしないということは重力に逆らうようなものである。であればどうすれば儲かるのか、を頭が痛くなるほど考えに考えて、解決策を見出していかなければならない。走りながらノウハウを取得して考えるもよし、他社の動向からヒントをみつけるもよし。いずれにせよ、電子書籍反対派のみなさんは、どんなにネガティブな考えであろうが、そういう前向きな人々の足を引っ張るようなことだけはしてほしくないと思う。

コメント

  1. 最初からネガティブなスタンスの論調は結構多くされています。Twitterが出たときも「Twitterは脅威」ということを前提にした議論は多く掲載されました。