池田先生の「NTT対ソフトバンク論争」について

2010年11月30日 18:33

池田先生の記事に対するコメントにしようかと思ったのですが、長くなるので一つの記事にします。

私にとっての世界七不思議の一つは、経済問題については歯切れの良い論客であられる敬愛する池田信夫先生が、この問題になると何故このように突然レベルが落ち、支離滅裂になるのかということです。


詳細は存じ上げませんが、かつて池田先生は総務省が法案提出まで準備していたNTTに関するドミナント規制について、米国の事情などを調査して反論し、見事に廃案にまで追い込んだと聞きました。この時には、有無相通じるチームワークが、きっとうまく機能していたのでしょう。しかし、今回はとてもそううまく行っているようには思えません。

そもそも今回の池田先生の記事の表題自身が少し変です。NTTとソフトバンクは現時点で何も論争などしていないのですから。ソフトバンクの孫社長は何度もNTTとの公開論争を呼びかけていますが、NTT側は「そんな必要はない。タスクフォースでの議論に任せればよい」と言うばかりで、一向に乗ってきてくれてはいません。

さて、今回の池田先生の記事で紹介されている民主党の情報通信議員連盟のヒアリングでの鵜浦副社長の「応戦」ですが、これは、失礼ながら、いつもは知性的なNTTさんが作られたものとはとても思えぬ程の「レベルの低いもの」に思えます。先ず表題の「ガラパゴス*」というところから少し滑っていますが、これについては特にコメントしないことにして、以下、三項目に分けて、正しく詳細に解説します。(便宜上、NTTの資料の左側をA案、右側をB案と呼びます。)

* オーストラリア、ニュージーランド、シンガポールを始めとして、米国、英国も含めた海外諸国の状況は、どう見ても「ガラパゴス」ではなさそうなソフトバンク案と整合性があります。

第1項目:

A案: 「無線 and/or 固定」という表題だが、要するに「何もしない」という事。「不効率なメタル回線はそのままで、光回線は注文があれば敷設し、無線ネットワークはこれまで通り競争する」という案。

B案: 先ずメタル回線を全面的に光に張り変えた上で、携帯通信など無線ネットワークはこれまで通り自由に競争するという案。(当然、「光と無線の併用」となる。)

第2項目:

A案: 「切磋琢磨(設備競争)」という表題だが、要するに、「電力会社等の限られたプレーヤーが、採算が取れるところだけを選んで光回線を敷き、採算の合わない地方の市町村等は切捨てる」という案(市場原理主義に委ねた「寡占体制下での自由な設備競争」)。

B案: 「NTTから『アクセス回線の敷設・管理部門』を切り離し、『出来れば関係者全員参加の、透明性を徹底した新会社』を設立し、あらゆる通信事業者(設備競争をしている相手も含む)に公正無差別に回線を貸与する」という案。

第3項目:

A案: 「ユーザー選択の自由」という表題だが、要するに「都市部に住むお金のあるユーザーは好きなサービスを選ぶ『選択の自由』を持ち、お金のない人や、切り捨てられた地方の市町村に住む人は『諦める自由』を持つ」という案。

B案: 「全所帯の既存のメタル回線は、先ず『ユーザーの負担一切なし』で光回線に張り替えられるが、その上で、あらゆる地域のあらゆるユーザーが、何も強制されることなく、各通信会社がオファーする色々なメニューの中から、自分の好きなものを選ぶことが出来る」という案。(これまでの電話やFAXだけでよい人は、これまで通りの値段で、これまで通りの機器を使って、これまで通りのことが出来る。)

上記の解釈でどこか間違っているところがあれば、NTTさんの方から具体的にご指摘頂きたいと思います。(池田先生、よろしくお取次ぎ下さい。)

次に池田先生の今回の論点は下記の2点に分かれると思うので、そのそれぞれについてコメントします。

1)「設備競争がベスト」であるというタスクフォースの意見

11月29日付の私の記事でも指摘した通り、このドグマチックな結論には、必要な検証が全く欠如しています。ケイ・オプティコムの問題点も含め、私はこの問題を11月22日付のアゴラの記事で詳しく論じていますので、池田先生も先ずはこの記事をじっくりお読み頂き、この記事で指摘した諸点に反論するという形で議論してください。

また、池田先生は安易に「競争政策の常識」という言葉をお使いになっておられますが、通信産業における「競争」がどういうものであるべきかという問題は、相当複雑な問題であり、「常識」と呼べるようなものは存在していません。

尤も「NTTの光ファイバー系の卸売り料金は世界一安く、それが電力系や独立系の業者とのプラットフォーム競争を阻害している」というところは、面白く読ませて頂きました。これは「安すぎる値段が出てくると、競争が阻害されるから困る」と言っておられるかのようにも読み取れましたが、そうなのでしょうか? (つまり、「寡占事業者間で、あい見互い見の『見せかけの競争』を維持しておけばよい」という事なのでしょうか?)

因みに、NTT東・西の光アクセス回線におけるシェアは、既に70%を越え、更に上昇傾向にあります。このままだと、独禁法抵触を恐れるNTTは、今後は「設備拡大」を更に抑制し、「利益の確保」に軸足を移すでしょう。

2)「高速無線がFTTHに対する破壊的イノベーションになっているから、FTTHはもはや必要ない」という議論

私は、「高速無線」についてはいささかプロの部類に入ると自負している人間ですから、池田先生のこのご理解が間違っているという事は、これまでも数度にわたり申し上げました。(過去のアゴラの記事をご参照下さい。)

しかし、何度申し上げても、それにお答え頂けた事はなく、忘れた頃になると、先生は何故かまた同じ事を言い出されます。こうなると、もう池田先生の顔がゾンビ(或いは、昔の日系プロレスラー、不死身のグレート・東郷)に見えてくる程です。

一番よいのは、どなたかプロの通信技術者の方(ドコモの方が最適だと思いますが)に池田先生からご依頼されて、私と議論して頂くようする事だと思います。「市場がどのタイミングでどの程度の高速アプリケーションを求めるか」といった問題になると、人によって意見が分かれるでしょうが。「光とLTEの通信能力の差」を論じるような事なら、私とドコモの技術屋さんとの間では、意見の相違など生じるわけはないからです。

最後に、池田先生は、「NTT法などは廃止して、ソフトバンクがNTTにTOBをかけるなど、何なりと好きにやればよい」とのお考えのようですが、失礼ながら通信産業の本質を理解されておられないようです。

世界中のどんな国でも、通信産業にレセ・フェールの市場原理主義をそのまま適用し、何の規制もかけていない国などありません。(多くの国は、旧独占事業者に対して、日本より強い非対称規制などをかけています。)

仮にソフトバンクがNTTのアクセス回線部門を買収することが出来たとしても、公益を守る為に国が必要と考えた諸規制は、ソフトバンクとしては当然受け入れます。

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