官僚はなぜ周波数オークションをきらうのか

2010年12月03日 11:38

今回の動きのきっかけになったのは、海部さんの「周波数政策を誤れば『棺桶の蓋に釘』となる」という2月の記事でした。それを敷衍して私が4月に書いた「総務省案では次世代のiPhoneもiPadも日本で使えない」という記事が孫さんにツイッターで紹介されて2000以上もRTされ、iPhoneユーザーの怒りの声が原口さんにも届いたわけです。


ただ「総務省の『中の人』たちは、もともと『ハーモナイズ案』にしたかったのではないだろうか」という海部さんの推測は逆です。彼らは国際周波数に反対で、AWF(アジア周波数フォーラム)には提案さえしていない。それは彼らが何年も前から外資を排除して国内業者と「握ってきた」約束があるからです。業者はその約束をもとに手配を始めており、それをひっくり返すことは電波部の無謬性を否定することになる。

彼らはオークションにも一貫して反対です。私は2001年に200人以上の経済学者の署名を集めて周波数オークションの実施を提言しましたが、そのときは運悪く3Gオークションで欧州のキャリアが莫大な損失を抱えたため、周波数オークションは見送りになってしまいました。その後も電波部はずっとオークションに反対してきました。

それは天下り先を確保したいという動機もあるでしょうが、もっと本質的なのは官僚は日本でもっとも賢い集団だというプライドだと思います。山田肇さんの紹介している総務省情報流通行政局の大橋秀行総務課長の言葉は、これをよく示しています。民主党の勉強会で「電波監理審議会は3時間ぐらいの審議で正しい業者を選定できるのか?」という質問に、彼はこう答えたのです:

審議会に対して諮問し答申をいただきますけれども、これは私どもの評価ということを審議会にお諮りして答申をいただくということでありますから、要するに評価は私どもの方でいたします。そのうえで第三者的な立場の方々にも専門的な何がしかの立ち位置・立場からご意見をいただくということでありますから、われわれは当然のことでありますけれどもプロフェッショナルな立ち位置に立ち、それだけのスタッフを持ちしっかりした評価というものをさせていただく[・・・]

電波法では、電波監理審議会は官僚の諮問した案を審議して最終的な答申を出す場ですが、実態は事務方の決めたことを追認する場になっています。評価を官僚がするなら、審議会は必要ない。大橋氏は、うっかりその実態を正直に話してしまったのでしょう。電波の素人ばかり5人の電監審は、まさに「何がしかの立ち位置・立場からご意見をいただく」場でしかない。

官僚がオークションに反対するのは、彼らが知っている「正しい答」とは違う結果になるからです。たとえば今回の700MHz帯については、当初案では40MHzあける予定だったので、3スロット取って、うるさいソフトバンクにUHF帯を与えようと思っていたでしょう。ただソフトバンクが総務省にさからうようなら、2スロットにしてドコモとKDDIだけに割り当てることも可能です。このように生殺与奪の権を握っていることが、電波行政の強力な基盤になっているのです。

このように賢明な官僚が将来についての計画を立てて民間を指導するという思想を、ハイエクは計画主義(constructivism)と呼びました。この思想は、電波部のような理科系の人には特に強い。電波技術は、工学的には詳細に決めることができるからです。しかし、それがビジネスとして成功するかどうかは、誰にも決めることはできない。今や官僚は、それを決めるための一次情報も持っていない情報弱者なのです。

他方、既存業者は数千億円の免許料を恐れているので、欧州まで現地調査に行って、オークションがいかにひどい制度であるかについての詳細な報告書をつくって官僚に「情報提供」する。官僚は、そのバイアスがかかった「一次情報」をもとに省内で根回しをするので、業者寄りの結論しか出ない。このように情報優位にある業者が役所をコントロールする現象をregulatory captureと呼びます。

急速に変化する情報通信の世界では、誰にも正解はわからない。だから電波をもっとも有効に使うと言う企業に使わせ、コストも収益もその業者に負担させようというのがオークション(というより市場経済)の考え方ですが、これは官僚が正解を知っているという霞ヶ関の思想に反するのです。そのコアの部分を壊せなかったという意味では、今回の作業部会の結論は、海部さんもいうように、まだ道なかばというところでしょう。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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