Good News and Bad News:700/900MHz周波数割り当てとオークション - 海部美知

アゴラ編集部

英語でよく、「good newsとbad newsがある。どっちから聞きたい?」などと言う。先週以来の700/900MHz周波数割り当てに関する動きに関しても、「good newsとbad news」がある。先にgood newsから行こう。

700MHzでの「ガラパゴス化」が回避できそう、という件。

いわゆる「アナログテレビ跡地」の周波数帯700MHzをどうするかの問題で、以前は700MHzに十分な帯域がないために、世界標準とは違うが、 900MHzとペアにして割り当てる、という案(ここでは「ガラパゴス案」とよぶ)が有力だったが、結局700MHzの現在の住民のみなさまにお立退き願って、世界標準に合わせて700MHz内でのペアと 900MHz内でのペア、という形にする案(ここでは「ハーモナイズ案」とよぶ)を全部の事業者が支持して、その方向になりそうということだ(次のサイト参照)。

businessnetwork.jp 
日本経済新聞 
私のブログ


池田信夫先生には「海部さんのブログを発端にした」とも仰っていただいたが、実際にはソフトバンクの孫さんがTwitterで当時の原口総務大臣を動かしたという、政治主導の結果だそうだ。ただ、確かに私が最初にこの件をブログに書いた2月頃には、まだ全くコトが動く気配がなかったのが、4月に総務省の方針が出て以降急に動き出したので、そういう意味では私もブログやTwitterにて「清き一票」を投じるぐらいのことはできたのかもしれない。孫さん、原口大臣、その他業界の関係各所の皆様に深く感謝申し上げます(参照)。

非常にうがった見方なのかもしれないが、総務省の「中の人」たちは、もともと「ハーモナイズ案」にしたかったのではないだろうか。過去の経緯から見ても、専門知識のある中の人ならば、そう考えるほうが自然な感じがする。しかし何事も、今あるモノはなんらかの理由や過去の経緯があってそうなっているので、それを変えようとすれば必ず抵抗があり、それが強力だったので、仕方なく「ガラパゴス案」を出した。でも実は、外から「ハーモナイズ」派の援軍が来たので密かに喜び、ちゃぶ台をひっくり返す仕儀に及んだのでは、と勝手に楽しく推測している。

もっと妄想すると、「ガラパゴス派」は基本「放送組」で、この方達は基本的には日本国内の利害だけで動けて、世界標準などどうでもいい「攘夷派」。「ハーモナイズ派」は「通信組」で、こちらも長いことガラパゴスと揶揄されてきたが、最近、機器・端末の数量・コストの懸念や、iPhoneのような「世界端末」の影響力増大により、これはいかんと「開国派」となった。で、「開国派」が勝利した図である。ここまではめでたい。

さて、bad newsのほう。私はかねがね、上記ブログでも、「周波数ハーモナイズ」とセットで、「周波数オークション導入」を提唱してきた。この点に関しても、「オークション導入の話が始まりそう」という記事が出て、「おお、なんと話が早い、信じられない」と思っていたら、やはり信じないでよかった。 

ここで言っているのは、周波数利用免許そのもののオークションではなく、今その周波数を使っている占有者が他に移るための費用を「入札」して、一番高い札を入れた人に周波数をあげようという、非常に変則的な話である。政治的配慮から建前だけ「オークション」という名前をつけるための方便のような感じである。

その後のTwitterでの話などを読むと、「今の電波法ではできない」「オークションは非常に複雑で導入は困難」「免許料が上がって料金が高くなる」「今までタダで周波数を貰っていた人との間で不公平」などの否定派の意見が出ているようである。

えーっと・・・今、西暦何年でしたっけ??こういう話は、私はもう20年近く前にさんざん聞いた。1990年代前半、米国での周波数オークション導入前夜の議論である。その後、米国だけでなく、欧州もオークションを導入し、今年はインドでも実施された。ブラジルでも今月始まる。新興国も含む世界中でやっているのに、日本人だけは「複雑すぎてできない」のだろうか?オークションをやってない日本が世界で一番携帯料金が高いのはどういうことなのか?今の法律では確かにできないのだろうが、その法律が時代に合わなくなったら変えるために政治家がいるのでは?世界中でみんな採用しているということは、オークションのほうが「良い」からではないのか?

「すごく大変なので、今回は見送って4Gからやってはどうか」という意見もあるらしい。えーっと、4Gっていつ実現するんでしょうか?そんな遠い未来の話は「やらない」と同義。

もう、世界中で20年も周波数オークションの事例は積み上がっていて、研究はさんざんされている。日本でも、体系だって研究している方がおられると聞く。オークションはいろいろな形で設計できるので、遅く参入する利点を活かし、世界中の事例をよく研究して、日本に合った、そして時代に合った、オークションを設計すればいいだけ、と思う。

国によりいろいろポイントが異なるのだが、日本におけるオークションの目的は、「公平性」と「迅速性」に置くべきと思う。オークションとは、見方を変えると今流行の「プラットフォーム」戦略である。オークションという仕組みにすべて当てはめ、ありとあらゆる周波数を同じルールのオークションで、同じ形式の手続きで行う、ということだ。放送用の周波数も、特殊用途の業務用無線も、すべて同じ仕組みで扱う。(だから、上記のような「今回だけの変則」みたいなことをちまちまやっていては、オークションの意味がない。)よく言われているように、恣意的に誰かに周波数を割り当てることの問題を回避できるだけでなく、定型的に作業が行えて、手間が大幅に省け、迅速に実施できる。この割当で周波数を出します、参加者の条件はこれこれです、というふうに材料を切りそろえたら、あとはオークション・システムに流しこめばいいだけである。モバイルテレビのように、10年も延々と決まらないということは起こらない。

もちろん、ネガティブな面もある。現在においては、携帯電話のような大型オークションにおいて、資金力の面で小規模な新規参入は事実上締め出されることになってしまう。しかし、これはある程度仕方ないことで、資金力のない企業が無理やり免許をもらっても、どうせその後の設備投資が膨大にかかり、そこでつまづく。その例も過去に枚挙にいとまがない。

今後はぜひ、オークションの専門家に諮って(インドから招聘しては、という話もあり^^)、感情論でなく、経済効果と技術面できちんと評価して議論してほしい。ぶっちゃけ、この700/900MHzでは、オークションをしてもしなくても、結局は似たような顔ぶれに落ち着くだろうから、これ自体の緊急性は、「ハーモナイズ」と比べれば低いとも言える。しかし、優れた仕組みをいったん作れば、この先何十年もその効果を享受することができる。せっかく人気の高い周波数が出せるのだから、この機会にやっておくべきと思う。今から十年後、今は想像もできないすごい技術が出てきたとき、日本だけがモタモタやっているということになってほしくない。

開国派としては、周波数割り当ての仕組みも、「公平」「迅速」なオークションを導入して、この点でも「ガラパゴス」を脱したいところである。

<参考>私のブログ記事

コメント

  1. jerusalem2000 より:

    「すごく大変なので、今回は見送って4Gからやってはどうか」

    日本以外の国では、LTE, WiMAX のことを 4Gと呼んでいますが、

    日本では、LTEは 3.9G、LTE-Advanced のことを 4Gと呼んでいます。

    どちらでしょうか?

  2. 松本徹三 より:

    本筋とは関係ない話ですが、jerusalemさんから問いかけがあったので一言。

    3.9Gというのは日本が発明した言葉で、最近までは日本以外では全く使われていませんでしたが、最近欧州の事業者も「この言葉は便利なので自分達も使ってはどうか」と言い出しました。

    つまり、これまでのようにLTEを4Gと呼び続けると、折角3Gの為に作った色々なルールがすべて見直されたり、使用する周波数に制限がついたりして面倒くさいから、「LTEも3Gの一部だ」ということにしてしまったほうが便利だという事です。つまり、ガラパゴス語が欧州で市民権を持つことになるかもしれないという事です。

    本来技術革新は連続したものであり、殊更「世代(G)」という言葉を使う意味はあまりないし、一方で「世代」を「周波数」と紐付けるのは好ましくないので、私はずっと「3.9G」という呼び方には賛同してきていました。ですから、このガラパゴス語が世界に広まることは歓迎です。

    とにかく、「この周波数免許を使うときにはこの技術を使え」等という「無用な縛り」はなければないほど良いですから、その辺は総務省にもよろしくご配慮いただきたいところです。まあ、「将来の3.5GHZ帯の免許はAdvanced LTE(4G)用ですよ」ということ位ならいいですが…。