医薬品の通信販売自由化以前に、店舗販売業の規制緩和が必要だと私は考える。
2011年度から、6年制の新卒薬剤師が実務に就く。
内容はともかく、年限では大学院修士課程卒程度の学歴がある彼らに、店舗販売業(処方箋を受け付けない薬屋)の経営者は何をやらせるのだろうか。
おそらく、白衣のような制服を着せて、店頭でレジ打ち、品出し陳列、発注、返品処理をさせるだろう。他に仕事はない。無資格の労働者が時給900円でやっているのと同じ仕事を、時給2000円でやらせるわけだ。
数年前までは、店舗販売業における薬剤師とは、名目的な存在だった。店頭にいないことが多かったし、名義貸しである場合もあった。それでも、特に問題は出ていなかった。 ところが、最近になって、規制が強化され、実際に店頭にいることを求められるようになり、その上、資格取得に必要な年限が延長された。
試験だけで取得できる登録販売者という資格が2009年にできたが、彼らが売れるものは、第二類と第三類医薬品だけであり、薬剤師を完全に代替することはできない。育毛剤リアップや胃酸抑制剤ガスター10は薬剤師が売らねばならない。
6年制卒の薬剤師を店頭配置することによるコストは、価格弾性値にもよるが、一部は消費者がかぶる。薬剤師は余計な教育をされて、2年分の所得を失い、学費を2年分余計に取られる。
1.5倍の学費を徴収できることになった薬科大学は得をしたが、長期教育が大学入学者に嫌われ、入学定員割れという形で報いを受けている。
薬剤師が相手を見て、不適切な使用をしそうな人には売らないとか、病状をよく聞いて、適切な薬を売るというようなことはない。もちろん、聞かれれば答えるのだが、医師の問診のようなことはしていない。
「そんなことはない。ただ機械的に売っているのではなく、病状を聞いて、適切な薬を選んであげているのだ」
と薬剤師たちは言うかもしれない。だが、それはそれで、問題が発生する。
もしも、薬剤師がOTC販売の場で、問診のようなことを行い、懇切丁寧に説明したら、それは医師の外来と同じであり、「簡単に手に入り、安い」というOTCの利点を殺してしまう。医師なみのコストで、医師と同じようなことをするのなら、医師がやればいいのだ。
「薬剤師は養成コストが安いから、医師よりも安く使うことができて、医療費抑制に貢献する」
ということも、かつて言われたのだが、6年制化によって、それも怪しくなった。薬剤師を6年かけて養成するくらいなら、医師を増やせばいいのだ。
薬剤師がとくべつ薬に詳しいということもない。薬学部は、実験科学の研究者の集まりであって、薬の研究者の集まりではない。研究内容が、結果として、薬の開発に関係するということはあるが、薬物オリエンテッドな研究はとくにしていない。それは製薬会社の仕事だからである。
薬学部だから薬理学を深く学んでいるだろうというのは外部の人の勝手な妄想である。研究者にとっての薬理学はともかく、学生にとっての薬理学とは、薬物と受容体の組み合わせを憶えるだけの科目でしかない。研究者が講義をしなくてはいけない理由はどこにもない。本を読めば誰でも憶えることができる。
製剤学(薬物動態学)も、具体的な薬について学ぶのではない。理論的なシミュレーションを学ぶだけなのだ。これも、研究レベルでは、ずいぶんと複雑なモデルを考え、高度な数的処理をしているが、臨床レベルでは、変数分離型の1階常微分方程式しか使わない。この程度の方程式の理論は、高校生でも3時間で憶えられる。
しかも、この程度の知識すら、店舗販売業では使うことはないのである。
コメント
井上晃宏さんは、よく薬剤師をこき下ろす記述をされますね。確かに井上さんが書かれているようなこともあるかもしれませんが、だからといって薬剤師が不要だとか役に立たないということにはなりません。ある部分だけをとらえていうのであれば、医師であっても、医師でなくてもできることを医師がやっているではありませんか。そのように一部分だけをとらえて、薬剤師不要論のようなことは言わないでもらいたい。薬剤師がレジを打ったらいけないのですか?そんなことをいったら、医師は医師でしかできないことしかしないのですか?医師以外でもできることを医師が行うことだってありませんか?一部分だけをとらえて全体を悪く思わせるようなことはやめて下さい。
はじめまして。現在、薬学部に通ってる学生です。私も薬学部の6年制に疑問を持っています。確かに卒業したあと、即戦力の薬剤師が働けるとは思います。しかし、それだけです。4年で卒業し、2年間働けばあんまり変わらないのでは、そんな風に思ってしまいます。また薬理学の研究に従事する学生も全体の20分の1程です。9分の1の学生は基礎実験の研究をして怠惰な時間を過ごします。彼等が研究で何を学ぶのかよくわかりません。
そして、今まで通りの国試合格者数をだせば薬剤師数が余剰になるのは目に見えてますし。
まだ卒業生もでていないので、どうなっていくのか分かりませんが5年後、10年後に大きい問題に発展していく可能性は大きいと思います。その時、厚生労働省はどうするのでしょうか?まぁ、何もしないでしょうが・・・とりあえず、国の動きを注意深く見ていこうと思います。理想だけは高く、現実的な案を考えていない国にはあまり期待はしてませんが。
現場の声も知らず、青臭い学生のネガティブな発言ばかりが、薬学は私にとって非常に面白い学問です。薬学部での仲間も非常に面白い人達でいっぱいです。そこだけは誇りをもって言えます。叶わない望みかもしれませんが、優秀な後輩が増えることを期待してます。
薬剤師の就職先を規制によって確保しておかないと,誰も6年も先行投資して回収できないような職業に進もうとは思わないでしょう。歯科医の診療報酬を絞って歯科医をワープア化したことで歯学部の定員割れは無残なものです。理工系のポスドク問題も,博士を餌に学費を搾り取り,就職先が無いという問題です。文系の法科大学院だって,卒業すれば7割くらいは弁護士になれると思わせて,正社員をやめて借金して入った人が合格できなくて途方に暮れている話です。教育学部の6年制化と30人学級なども教師の就職先確保の規制強化です。この国の資格商売というのはえげつないですね。
drugtarouさんへ。
私は薬剤師を批判しているのではありません。薬剤師は必要だし、それなりのスペシャリティもあります。
私が批判しているのは、薬科大学(薬学部)であり、薬学研究者です。だって、彼らは、サムライ商法(資格商法)で学生を集めて、無意味な教育を行い、ポストを確保し、好き勝手な研究をやっているのですから。
経営について無知で素人な医師に医院の経営をさせる愚も早くやめるべきですね。
井上さん、
私は、薬科大学に加えて薬剤師も批判されるべきと考えます。なぜなら、無意味に長い教育を行いそれを国家試験の受験資格とすることは参入障壁として働き、それが薬剤師の超過利潤(高い給料)に反映されているからです。その費用を負担しているのは消費者です。
これは、(とても必要とは思えない)美容師の国家試験と同じ構図です。美容師になるためには厚労省認可の学校に通い、古代エジプトのファッションまで学ばなければならないのです。
こういうやりかたで利益を得ているのは、井上さんの言うように、学校、それから天下りのポジションができる官僚、そして新規参入をコントロールして高い賃金を維持している業界の人間です。これらすべてが批判されるべきです。
問題の解決策は単純で、薬剤師国家試験の受験資格を薬科大学卒業者に限らずすべての人に解放することです。もちろん政治的には難しいですが。
>薬剤師国家試験の受験資格を薬科大学卒業者に限らずすべての人に解放することです。
そのとおりです。
金と時間をかけずに取れる資格であってこそ、薬剤師は資格として存在意義があるのです。現在のように、資格取得のためのハードルを高くすればするほど、「それじゃ、いらない」という結論しか出ない。
しかも、ハードルが、薬剤師の仕事とはまったく何の関係もない。現在の制度は、一般国民の犠牲の下に、薬学部を太らせているだけです。