大学院修士卒相当者を店頭に立たせる愚

2010年12月04日 04:31

 医薬品の通信販売自由化以前に、店舗販売業の規制緩和が必要だと私は考える。

 2011年度から、6年制の新卒薬剤師が実務に就く。
 内容はともかく、年限では大学院修士課程卒程度の学歴がある彼らに、店舗販売業(処方箋を受け付けない薬屋)の経営者は何をやらせるのだろうか。
 おそらく、白衣のような制服を着せて、店頭でレジ打ち、品出し陳列、発注、返品処理をさせるだろう。他に仕事はない。無資格の労働者が時給900円でやっているのと同じ仕事を、時給2000円でやらせるわけだ。


 数年前までは、店舗販売業における薬剤師とは、名目的な存在だった。店頭にいないことが多かったし、名義貸しである場合もあった。それでも、特に問題は出ていなかった。 ところが、最近になって、規制が強化され、実際に店頭にいることを求められるようになり、その上、資格取得に必要な年限が延長された。
 試験だけで取得できる登録販売者という資格が2009年にできたが、彼らが売れるものは、第二類と第三類医薬品だけであり、薬剤師を完全に代替することはできない。育毛剤リアップや胃酸抑制剤ガスター10は薬剤師が売らねばならない。
 6年制卒の薬剤師を店頭配置することによるコストは、価格弾性値にもよるが、一部は消費者がかぶる。薬剤師は余計な教育をされて、2年分の所得を失い、学費を2年分余計に取られる。
 1.5倍の学費を徴収できることになった薬科大学は得をしたが、長期教育が大学入学者に嫌われ、入学定員割れという形で報いを受けている。

 薬剤師が相手を見て、不適切な使用をしそうな人には売らないとか、病状をよく聞いて、適切な薬を売るというようなことはない。もちろん、聞かれれば答えるのだが、医師の問診のようなことはしていない。
「そんなことはない。ただ機械的に売っているのではなく、病状を聞いて、適切な薬を選んであげているのだ」
と薬剤師たちは言うかもしれない。だが、それはそれで、問題が発生する。
 もしも、薬剤師がOTC販売の場で、問診のようなことを行い、懇切丁寧に説明したら、それは医師の外来と同じであり、「簡単に手に入り、安い」というOTCの利点を殺してしまう。医師なみのコストで、医師と同じようなことをするのなら、医師がやればいいのだ。
「薬剤師は養成コストが安いから、医師よりも安く使うことができて、医療費抑制に貢献する」
ということも、かつて言われたのだが、6年制化によって、それも怪しくなった。薬剤師を6年かけて養成するくらいなら、医師を増やせばいいのだ。
 薬剤師がとくべつ薬に詳しいということもない。薬学部は、実験科学の研究者の集まりであって、薬の研究者の集まりではない。研究内容が、結果として、薬の開発に関係するということはあるが、薬物オリエンテッドな研究はとくにしていない。それは製薬会社の仕事だからである。
 薬学部だから薬理学を深く学んでいるだろうというのは外部の人の勝手な妄想である。研究者にとっての薬理学はともかく、学生にとっての薬理学とは、薬物と受容体の組み合わせを憶えるだけの科目でしかない。研究者が講義をしなくてはいけない理由はどこにもない。本を読めば誰でも憶えることができる。
 製剤学(薬物動態学)も、具体的な薬について学ぶのではない。理論的なシミュレーションを学ぶだけなのだ。これも、研究レベルでは、ずいぶんと複雑なモデルを考え、高度な数的処理をしているが、臨床レベルでは、変数分離型の1階常微分方程式しか使わない。この程度の方程式の理論は、高校生でも3時間で憶えられる。
 しかも、この程度の知識すら、店舗販売業では使うことはないのである。

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