
AdrianHillman
「われわれが難民だなんてウソ。みんな上手にウソをつく」
ギョッとするような一言である。埼玉県川口市を中心にクルド人の問題行動が、ネット発の指摘で可視化された。しかし、全国紙で取り上げるのは産経新聞くらいである。
一方で、同市に滞在するクルド人を巡るトラブルは収まるどころか、日々悪化している。今年3月には川口市在住で、埼玉県知事から表彰されたクルド人男性が同居女性を殴り逮捕されたとの報道があった。とんでもない話であるが、私はすぐにピンと来て本書を開いた。前日に読んだ箇所で、埼玉県知事と一緒に写真に納まっていたクルド人男性の姿が記憶にあったからである。正に、その男性こそ逮捕された渦中の人であった。
また、本書で紹介されているネウロズというクルド民族のお祭りが、前述の逮捕報道から数日後に埼玉県営公園内で開催された。今度は、それに抗議する戸田市議との間でのトラブルが報じられている。
本書は過去に起きた事件の検証レポートではなく、今まさに川口市で発生しているクルド人問題を現在進行形で追いかけている。
「彼らは難民ではない。実際のところは、よりよい生活を求めての移民だ」
トルコの著名ジャーナリストであるイェトキン氏は、こう言う。また、元国連難民高等弁務官(UNHCR)東京事務所駐日代表を務めた滝澤三郎氏は、現在のトルコはクルド人という民族的な理由だけで迫害を受けることはないと結論付けており、クルド人が難民申請を繰り返す行為の前提そのものに疑問を投げかけている。
本書では川口市内のレポートだけではなく、遠くトルコの現地取材も踏まえ、これだけの客観情報を提示している。冒頭のギョッとするような一言は、取材班がトルコの現地取材を行った際に、かつて10年以上日本で働いたクルド人の証言である。しかし、現状では川口市の地域住民の不満に、行政の対応が追い付いていないようである。
この問題を、私は神奈川県にとって対岸の火事として楽観視すべきではないと思う。神奈川県内にも外国人比率の多い自治体はあるが、住民や自治体が協力しながら大きな問題には発展していないと聞いている。
しかし難民申請の制度を悪用し地域と対立する事例が神奈川県では発生しないとは言い切れないし、川口市でのクルド人問題が続けば合法的に入国し真面目に生活している外国人住民へのイメージ悪化にもつながるのである。
何か大きなトラブルが起きると、世論は外国人受入れと外国人拒絶の二項対立に陥りやすい。しかし、人口減少下の日本で社会機能を継続的に機能させていくためには、その対立を越えた社会像を提示することが政治の責任となる。
共生社会の構築とは単なる美しいスローガンではなく調和ある社会を築くための困難な道のりであり、その現実を受け入れなければ持続可能な発展は成し得ない。まずは本書で赤裸々に描かれた事例を研究することが先決であろう。
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『「移民」と日本人』