子供たちに海図と羅針盤を持たそう - 山口 巌

2010年12月12日 22:55

大卒就職難の問題は畢竟、大学生の資質の問題と歪で縮小続ける労働市場問題が絡み合い、複雑骨折している事だ。既に多くの識者、論者により問題の本質と解決策が語られており何れも正鵠を得たものと思う。唯、語られたものは全て医療で言う所の臨床であり、今回は此れとは別に今少し、中・長期的で予防医学的な話、要はどうすれば大学や大学生がこういう現在の状況に陥らないで済むかに就いて述べたい。


そもそも論だが、大学生は大学入学に際し具体的にこう言った職業に就きたいので此の大学の此の学部を選択したとか、或る特定の分野を掘下げて勉強したいのでその分野に定評のある此の大学を受験したと言ったポジティブな動機を持って居るのだろうか?無論、大学にも拠るだろうが一般的に極めて少ないのではと推測する。

寧ろもっとネガティブな理由、つまり高卒で学歴を終える事への漠然とした恐怖とか家族も含めた世間体或いは高卒で社会へ出て何をしたら良いか判らない、単純に友達が皆大学に行くので取り敢えず自分もとか。

こう言う学生を企業訪問開始までの3年間で買って貰える魅力ある商品にまで仕立て上げるのは大学に取って負荷が大き過ぎるのは事実だろう。

だから、問題の本質は大学生の質の低下とか大学教育内容の労働市場のニーヅとのミスマッチとかの形而下的問題だけでなく日本の教育システムそのものが今の時代と不適合を起こしており、本来制度改革で問題解決図るべき所を現場対応でやりくりした結果、問題が先送りされ更に膨らみ今日に至ったと考える。

又しても私事で恐縮だが、私には公立中学3年生の長男が居り、来春高校受験である。従って担任の教師と面談する機会もあるのだが、何時も驚かされるのは担任の発想は私が中学3年生であった40年前と殆ど変わっていない事。多分教育システム自体基本的な所で同じものが只管維持され続けているのだろう。詰りは、文科省の官僚が「指導要領」を作成し教育委員会経由全国の教師に対し上意下達。一方、教師は日教組に加盟し現場の意見をベースに現場知らない官僚に対抗する。此のシステムの欠陥は最大の雇用の受け皿である民間企業での経験が全く無い官僚と教師達が産業界は若者に何を求め、労働市場がどの様に変貌しているか理解せぬまま古く成り時代遅れのシステムの稼動を只管継続している点にある。高校もエスカレターで大学に入学出来る所を除けば中学と似た状況と推測する。結果、子供達は将来どう言う職業に就くのか?その為のキャリアパスは具体的に如何なっているのか?等思いを巡らす事無く心太式に入学出来る大学に入ってしまう。同じ流れで、最近では大学院もこういう若者の難民キャンプと成っている様である。

此の問題を解決するには中学から「職業」とその職業に就くための「キャリアパス」を教えれば良いと思う。その施策としては今回のテーマである「海図」と「羅針盤」を子供一人一人に持たせるのである。私の言う「海図」とは世の中にある色々な職業の中身とその職業に就くための必要な「キャリアパス」を整理して子供達や両親が何時でも間単にアクセス出来る様にしたものである。併せて、中学・高校は職業とその職業に就くための「キャリアパス」を噛み砕き、実体験交え子供たちに教える事の出来る人間を専門職として採用すべきである。教員免許は必要なく条件としては民間企業での20年以上の勤務経験とか。

何をするかと言えば、相談に来た子供たちに教育システムと言う閉じた社会の住人である教師には見えない事実、例えば弁護士に興味を持つ子供が来れば必要「キャリアパス」として大学法学部4年→法学院大学2年→司法試験受験を先ず教えてやり、次いで生々しい話として低合格率の大学院大学では司法試験合格率一桁台である無残な事実。司法試験は3回迄受験出来るが3回落ちるとそれ以上の受験資格失い30才手前で社会経験全く無い人間として社会に放り出される事に成る厳しい現実をリアルに教えてやる事である。

子供たちはこういう生々しい話も生きた情報として吸収する事で安心して職業選択出来る様に成る筈である。

一方、「羅針盤」は子供の一人一人が自分の興味ある事に真正面から向き合い、将来自分が何に成りたいか真剣に考え続ける姿勢である。だから、子供が「羅針盤」を持つ為には学校だけでなく家庭の役割が極めて大きい。自分自身が大好きで自信を持ち将来に夢を持てる子供に育てねば成らない。

私がこう言う事を考える事に成ったきっかけは長男が中2の初めに突如として「僕は将来獣医に成る」と宣言した事実とその後の一連の経験にある。獣医志望の動機はどうも動物が好きだとか特に犬が可愛いとか他愛の無いものであった。こう言う行き成りの宣言に対し多分何処のご家庭でもそうだと思うが、獣医志望の理由を尋ねてみたり、同じ医者に成るなら普通の人間相手の医者が良いのでは?とアドバイスしてみたりであった。結局、長男の決意変わらず獣医を認め応援する事にした訳である。今と成れば微笑ましい思い出であるが当時長男と一緒にどうやったら獣医に成れるか?難易度は?等色々調査したものである。

例えば;
東大・農学部・獣医学科:町の獣医として開業と言うより官僚に成るケース多い。→これは違うな!
北大・農学部・獣医学科:ペットの治療と言うより牛・馬等大型動物の治療→これも違うな!
岩手大学・島根大学農学部獣医学科:此れは良いのでは!唯地方の大学にしては随分偏差値高い。矢張り獣医人気か?→高校進学は進学校に行く必要ありとの判断で通っていた塾を補修中心の所から進学の為の塾に切り替える。

此の話の顛末はその後長男が獣医科の手術実習の映像を観、自分にはとても手術は無理と判断、敢無く断念と成る。それ以降この一件に懲りたのか将来の事に関しては高校進学以外何も語らない。此の年頃の男子にありがちな思いつきと、夢の消滅と言う事だろう。

私が此の経験で本当に良かったと思うのは長男が「勉強」の意味を決して試験で良い点を取り親や教師に褒められる為の物では無く、自分が将来成りたい何者かに成る為の一つの「マスト」であり夢実現の為には通過せねば成らない「キャリアパス」があり通過するにはそれなりの努力が必要な事を実感として体験した事にある。

そえにしても、子供たちを時代遅れの教育システムの中で漂流させ、最後には不本意な就職と言う形で幕引きさせる事の業の深さを我々大人は一度じっくり考えてみるべきでは無いだろうか?
(山口巖 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役)

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