医薬品のネット販売規制を考える(2)

2010年12月14日 11:40

森田朗・東大教授の「会議の政治学」(慈学選書)は政府の審議会の意思決定メカニズムに焦点を当てた、珍しい書物である。審議会が「客観性を装って役所の考え方をオーソライズする『隠れ蓑』としての性質をもっている」(同書 p.10)ことは広く知られている事実だが、本書には数多くの審議会において座長を務めた著者だからこそ語れる審議会の本質が明快に整理されている。

「本書は、そもそもは退屈でフラストレーションの溜まる会議の最中に、会議の退屈な理由と運営化の効率化の方法について考え、作成したメモが出発点である」(p.181)という執筆の経緯も興味深いが、内容の専門性を考えると「多くの出版社が、このマニアックな本の出版をなかなか引き受けてくれないなか」(p.183)という出版社への謝辞の言葉も納得がいく。


本書の第一章第五節では「意見主張のテクニック」として、論理性・合理性には欠けるがよく見られる手法として以下のものを掲げている。

1. 論理の飛躍は気にしない
2. 論理の矛盾も気にしない
3. 部分的な主張をして、全体像には触れない
4. 都合のよい実例・調査結果だけを活用する
5. 論点をそらして、質問をかわす
6. 一事例を一般化する
7. シングル・イッシュー作戦(小泉首相の郵政民営化選挙のように争点を一つに絞ること)

11月30日、「情報通信技術利活用のための規制・制度改革に関する専門調査会」において医薬品のネット販売規制について、規制に反対する楽天・ケンコーコムと、賛成する日本薬剤師会・日本チェーンドラッグストア協会、そして厚生労働省の担当者へのヒアリングを行ったが、業界団体との質疑ではまさに上記のテクニックを披露して頂くこととなった。

今回質問の取りまとめを担当した私は、冒頭で次のような論点設定を試みた(以下、発言はニコニコ動画での中継を元に筆者がまとめた):

いろいろな場面で対面と比べてネットが劣るとか、対面かネットか、対面か非対面かという二元論に基づくような議論がなされているように思うのですが、今日議論すべきは、ネットが悪いかどうかではなくて、健康、安全に配慮しつつ、他方でさまざまな形態、通信販売等で医薬品を購買、購入したいという国民のニーズを満たすために、薬事法で要求されている情報提供、これをどういう形で行えばいいのかではないかではないかと考えます。

(中略)繰り返しになりますが、できる、できないではなくて、どうすれば、どのような条件を満たせば非対面でも販売が認められ得るのかといった点についてご質問させていただきたいと思います。

しかし、規制推進派はこのような論点設定を無視し、「ネットは対面に劣る」という議論に終始した。

○岩瀬 最初に、ちょっとお伺いしたいんですが、副会長様はインターネットで薬は買われたことはありますか。
○薬剤師会 ありません。
○岩瀬 買われたことがないから、買ってみてこれは危険だと判断されたわけではなくて、想像で恐らくこれは危険なんじゃないかというふうに考えられたと、そういうふうに理解してよろしいでしょうか。
○薬剤師会 想像でというよりも、明らかに対面で直に瞬時にいろいろなことが確認ができる対面に勝るものはないと思っていますので、対面を支持しているということです。
○岩瀬 なので、インターネットで薬品を実際に購入された経験はないということでよろしいでしょうか。
○薬剤師会 ありません。
○岩瀬 了解しました。ありがとうございます。

○森弁護士 最後にちょっと岩瀬さんのご質問で、ネットの場合、一方的な情報提供なんではないかというお話のところで、ご説明で一人一人に対する情報提供ができないんじゃないかと、一律なんじゃないかというお話だったんですが、ちょっとそこがわからないかなと思っていまして、例えば今ですとチェックメニューといいますか、プルダウンのチェックをつくって、あなたはほかのお薬を飲んでいますかとか、あなたはこれこれについてアレルギーがありますかとか、あなたは妊娠していますとか、そういう情報をとった上で販売の可否を決めることがネットでもできると思うんですけれども、それでも一律な情報提供しかできてないということになるんでしょうか。

○薬剤師会 第一類医薬品に戻りますと、書面での情報提供とありますが、ある項目はここもこうと決められていまして、最後に話をすることによって薬剤師が必要と思う事項について、いろいろ相談をしなさいという法律の中の用語がございます。ですから、直に対面でいろいろなことを顔色を見ながらとか、この方にはこういうことが必要だということをつけ加えたり、一律的に全部1から10まですべてが必要とする生活者の方だけではないと思いますので、それを専門家が見きわめるというのがその専門家の役割だと思っています。

○森弁護士 確かに、臨機応変ということであれば、対面のほうがいいかもしれませんが、網羅的にいろいろなことが聞けるという点ではネットのほうがいいのではないかと思いますが、それはいかがでしょう。

○薬剤師会 それはどなたが判断するんでしょう。全部来たものを、購入者ですか。

○森弁護士 もちろん購入者がどういう状態にあるかということをネット上で聞いて、販売者のほうで、それならちょっと販売するわけにはいきませんということになるんだと思います。

○薬剤師会 その辺よくわかりません。

今回、明確に確認できたことは、「ネットは危険である」という規制側の主張は、何か客観的な裏付けに基づくものでないということである。

○岩瀬 私からお配りした資料の1-1の13ページに質問事項を書かせていただきましたので、そこに沿って伺いたいんですが、1つは今回答でおっしゃっていただいたように、ネットのほうが被害が高まる危険性が高いというのは、例を示すまでもなく当然のことであるというふうにおっしゃっているんですが、ここは一切科学的、客観的な根拠はお持ちでないという理解でよろしいでしょうか。

○薬剤師会 科学的根拠と申しますか、私ども先ほどトリアージ業務と説明しましたが、売らないという、販売をしないという経験をいっぱい持っております。その中で未然に副作用を防ぐということも可能だというところから、当然だというふうに発言しております。

○岩瀬 なので、ネットでやった結果、副作用の危険性が高まるという客観的な科学的な根拠はお持ちでないという理解でよろしいですか。

○薬剤師会 それはないです。

もちろん、医療など国民の安全性が関わる問題については、実際に被害が出ているという証拠を待って初めて規制すべき、と言っているわけではない。安全性に明確に疑念が生じるのであれば、被害事例を待たずして規制はされるべきであろう。しかし、医薬品のネット販売はしばらくの間認められていたのであり、そこでは副作用が発生した事例はなかったことも考えれば、対面販売を義務付ける合理性に関する「挙証責任」が規制側にあるのではないか。

チェーンドラッグストア協会の発言はひどかった。

○楽天 当社のケースでいえば、薬剤師登録販売者の顔写真、氏名、それから登録ナンバー、そういったものについてはウェブ上で掲示して、消費者から確認できるようにしております。

○岩瀬 だとしたら、その点は仮にクリアできたとします。同様にほかの点についても技術的にクリアできれば、対面にこだわる必要はないんじゃないでしょうか。

○ドラッグストア協会 それはクリアできないよ。逆に言えば、これだけ技術が進んでいるのに、変な話で申しわけないけれども、月面着陸だって作られたんじゃないかと言われているくらいですから、それはそちらの論理で、それには乗れないですよ。

月面着陸の話を持ちだすなど、もう、意味不明である。ネット販売とは関係のない極端な事例に次から次へと言及して、会場の失笑を買っていた。

議論を進めていくうちに、よく分かったことがある。規制推進派はやはり、漠然とした「医薬品の安全性」といった理由以上の、ロジックは持っていないのである。このような、既得権益者による現状維持を求める不合理な規制こそが、我が国の活力をそいでいるのではないか。(つづく)

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岩瀬 大輔
ライフネット生命保険代表取締役社長

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