「光の道」論争のあとがき

2010年12月15日 17:20


ソフトバンクの活躍で盛り上がりを見せた「光の道」論争も、すべて2014年に先送りといういつもの結果に終わりました。結論は妥当なところですが、ソフトバンクはいまだに奇妙なテレビCMを流してがんばっています。その動機についてもおもしろい記事が話題になっているので、ちょっと蛇足のコメントをしておきます。


NTTとソフトバンクの経費の見積もりが大きく違うのは、この記事も指摘する通りですが、問題は工事費ではない。通信のように技術進歩が激しい分野で、経費の見積もりが違うのは当たり前です。問題は、その見通しが狂ったときどうするかという制度設計がソフトバンク案に欠如していることです。NTTの見積もりが正しければ、アクセス回線会社は莫大な赤字を出すが、それは誰が負担するのか。その経営が破綻すると、筆頭株主は政府だから2000億円の税金が失われます。これが「税金ゼロ」だなんて悪い冗談でしょう。

ただ、ソフトバンクの動機として「だれにも文句を言われず1円も出さずにADSLをやめたい」という推測は、ちょっと違います。ヤフー!BBが経営の重荷になっていることは事実ですが、その設備の償却はもう終わっており、ランニングコストも大したことありません。「耐用年数が迫っている」といっても、DSLAMの更新だけならそれほどのコストではなく、最悪の場合でも事業ごと売却すればいい。

私は、ソフトバンク(というより孫正義氏)にはそういう「裏の意図」はなく、単純に勘違いしているのだと思います。「光ファイバー公社」の話は、ソフトバンクの嶋聡社長室長が民主党の衆議院議員だったときから提案しているもので、2006年にも竹中懇談会に提案して一蹴されました。今回の案はそれと実質的に同じで、違うのはメタル線を強制的に撤去するという点だけです。だからねらいはADSLじゃなく、原因は嶋氏の「構造分離こそ抜本改革だ」という政治的な思い込みでしょう。

これは間違いです。ASCII.jpにも書いたように、プラットフォーム競争が最善であり、通信事業で構造分離が成功したケースはほとんどない。NTTの構造分離の話も民営化の前の臨調答申からあり、持株会社という中途半端な形で1997年に決まりましたが、大失敗でした。電話がインターネットに変わる時期に電話網の区分で分離したため、きわめて非効率な「地域IP網」を全国に構築する結果になってしまった。

いまNTTが恐れているのは、構造分離ではなく固定インフラの陳腐化です。FTTHの普及率は30%前後で足踏みしており、アメリカのように投資が止まるのも時間の問題でしょう。FTTHはモータリゼーションの時代に、全国すみずみまで整備新幹線を引くようなものです。「速くて信頼できる」というだけなら自動車より新幹線のほうが上ですが、そんなことはビジネスの基準にはならないのです。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!
池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑