何のフィロソフィーもない醜い税制改悪が行われる

藤沢 数希

政府税制調査会は様々な増税措置を発表している。これは産業界や識者にさんざん指摘されてきた法人税減税を実施するために、その税収減を補うためだ。大方の予想通り、所得税や住民税の控除を縮小することにより実質的に高額所得者(年収1500万円以上)に対する増税を行う。また扶養家族制度などの見直しにより個人に対して増税する。相続税も課税対象を拡大し増税することになる。法人税は現状の40%から5%引き下げ35%にする。心配されていた証券優遇税制に関しては、現行のキャピタル・ゲイン、配当に対する10%の優遇税率がさらに2年間延長されることに決まった。また法人税の減税の代わりに、減価償却制度や欠損金の繰越制度を見直すことにより企業に対して実質的な増税も行う。なお、これらが実行に移されるには次期通常国会で税制改正関連法案が成立する必要がある。要約すると、名目の法人税以外はほぼ全ての項目において増税が行われる見通しである。


筆者は常日頃から税制というのものが国の形を作ると考えている。そしてこの政府税制調査会の方針にはあきれているというか、非常に落胆している。名目の法人税をたったの5%下げること以外、基本的に全て増税だが、その背後に何のフィロソフィーも見えず、ただただ政治家のあさましいポピュリズムと官僚の同じくあさましい保身がぶつかり合っただけの内容になっているからである。

なぜこのような税制改正(悪)案になったのか。その背後にあるものを理解することは極めて簡単である。政治家は「次の選挙」に負けたくないから、とにかく増税をしたくない。とりわけ消費税は絶対に上げたくない。また、世界的な法人税引き下げ競争により、法人税は下げざるを得ず、そのことはマスコミでも盛んに論じられてきた。よって「政治主導」で最初に消費税は上げないことと、法人税率の名目をある程度下げることが決まった。一方で、官僚の方は、もちろん自分たちの利権を拡大するために増税したい。また「利権」以前の問題としてそもそもない金は絶対に払えない。赤字国債を大量発行するにしても今のねじれ国会では非常にむずかしい。それに政治家のポピュリズムに合わせていては財政破綻してしまう。財政破綻すると官僚のような公務員は非常に困る。よってそれは何としても避けなければいけない。

その結果どういう事が起こったか。国民が気がつかないところでせこい増税のオンパレードだ。財務官僚は「消費税をあげない」と「法人税をさげる」というふたつの制約条件の中、国民になるべく気づかれないところでいかに増税するかと知恵をしぼったのだ。法人税の減税は、減価償却制度や欠損金の繰越制度の変更による増税によってある程度相殺する。また所得税、住民税などの細かな制度変更でさらに増税する。どれも見かけの税率が変わるわけではないので、国民に増税とは気づかれにくいと思ったのだろう。結局の所、日本をどうやって成長させるのか、日本をどういう国にしたいのかというフィロソフィーが全くないのだ。日本経済が停滞して、これだけ日本の競争力が世界の中で凋落していっているのに、国の方針を決めるもっとも大切な税制において、そこにあるのはただただ醜い政治家と官僚の自分勝手なエゴのぶつかり合いだけなのだ。

なぜ税制を簡素化して、日本経済を再び浮上させるヴィジョンを示そうとしないのか。それは何も難しいことじゃない。書店に行って千円ちょっと払えばどこにでも売っているのだ。法人税と所得税はアジア諸国と同等にしないといけない。法人税も所得税も20%以下のフラット課税にして、がんばる人に報いるような税制にしないといけない。国際競争力を高めるために法人税を下げるというが、法人で働いている経営者の所得税もいっしょに下げなれば、外資系企業の誘致なんてできるわけがない。これからの少子高齢化社会で、多すぎる年金を貰い、多くの資産を保有している高齢者にも等しく負担をわけあってもらうために税源は消費税に求めなければいけないのだ。今回の税制改正ではそういった真っ当な変更が全く行われずに、ただただ政治家と官僚のお互いの利権を守りあう折衷案になっているだけだ。本当に情け無い。

コメント

  1. haha8ha より:

    >財務官僚は「消費税をあげない」と「法人税をさげる」というふたつの制約条件の中、国民になるべく気づかれないところでいかに増税するかと知恵をしぼったのだ。

    全くだと思います。官僚、政治家に本当に危機感がないですよね。その危機感持ってもらう方法ですが、個人的には彼らの老後をつっつくのがいいのではと思っています。

    「日本が「余命3年」でまっとうすれば、議員年金、共済年金、(+健康保険も?)ふっとびますけど、いいんですよね?」
    です。

    デフレがコントロールできないんだから、ハイパーインフレは間違いなくコントロールできないでしょう。日本国内の権威で飯食っている人ほど悲惨だと思うのですがねぇ。

  2. bellydancefan より:

    5年で年金基金を取り崩すって年金独占企業が試算してましたよね。その穴埋めは消費税で賄うって。

    イギリスは消費税減税でデフレを起こしたとかw

    コントロールできないから成り立つ商売もある(笑)

  3. 菅首相なんて、もう次は無いのだから、この際、消費税を一気に20%に引き上げて、やけくそ解散しちゃえばいいんでね。歴史に残るよ。

  4. https://me.yahoo.co.jp/a/oRLDjZ99XeQ0w7RIFpOaD9246x1SSu4-#63df2 より:

    > 多すぎる年金を貰い、多くの資産を保有している高齢者にも等しく負担を

    っていうなら、相続税の増税はいいと思うけどなー。
    子孫に財産残そうとしてもおおかた税金に取られるってことなら、生きてるうちに使ってしまえ!ってなって内需拡大できるんじゃ?

  5. いや、前言を撤回します。菅首相はこれまで、周りの小賢しい取り巻きの言うままに行動してきた繰り人形だったために、現在のテイタラクがあるのですが、最後の最後で取り巻きの進言と逆に消費税をゼロ%にしてケツをまくれば、実体経済が生き返り、歴史に名が残ると思います。

  6. tetuko_trail より:

    >菅首相なんて、もう次は無いのだから、この際、消費税を一気に20%に引き上げて、やけくそ解散しちゃえばいいんでね。歴史に残るよ

     かえって、名案ですね。ただしこの国は、北欧をモデルにしていた時期もあるのだから、40%くらいのショック療法がよろしいかと・・・国民も政府もその位のショックがないと行動の意思決定ができないほど、この国の痴呆症は進んでしまっていると思います。
     この際、一八勝負の方がまだ期待できる・・・。それから適正なところまで下がっていいのかなって思います。

  7. kkay1974 より:

    管首相にフィロソフィーを求めるの方に無理がある。

  8. kenta_f0219 より:

    「資産家の高齢者に負担させるなら相続税は上げた方が良いのでは?」という意見がコメントにありましたが、それでも高齢者は使わないでしょうねぇ。使うにも高齢者には使い道がない。住宅ローンは払い終わっているし、体力がないのでアクティブなレジャーには用がない。子供や孫の為に使うにも「贈与税」がかかるからあまり派手な消費は出来ない。相続税と贈与税を無くせば、使い道のないお金を持っている高齢者が子供や孫の為に大型の(家を買うとか…)消費をすることが期待出来ます。子供や孫にしても、出費の大きな部分を占める住宅ローンが無くなると消費行動が大きくかわって来ます。