インターネットビジネスに限らず、ほぼすべての事業に共通して考えねばならないことは、自分や自分たちの製品・サービスに対する関心を作り上げ、それを自分が求める形に集約すること、そしてそのトラフィックをいかに効率よくお金にすること、です。
前者の手法をトラフィックエンジン、後者をマネタイズエンジンと僕は呼んでいます。
トラフィックとは、ネット事業であればPV(ページビュー)やUU(ユニークユーザー)を増やすことであるし、百貨店であれば訪れる客数をあげることです。マネタイズとは、それらのトラフィックを換金する方法です。
つまり、トラフィックエンジンとマネタイズエンジンの両方を作ることが、大事なわけです。仕事をするときには、いまやっている仕事がトラフィックエンジンとマネタイズエンジンのどちらに関わることなのかを意識する必要があります。日々の仕事はどちらかのエンジンにガソリンやオイルを供給することなのです(双方に関わることもあります)。
起業家に限って言えば、どちらを先に作るか、は悩ましい問題です。
先にトラフィックエンジンを作り、大きく育てるには時間もコストもかかりますが、その分成長したトラフィックエンジンは巨大な収益を生むための源泉になります。逆にマネタイズエンジンを先に作るということは、事業としてはキャッシュを生むわけですから経営が楽になりますが、反対に事業を”こじんまり”とさせてしまうというリスクを負います。もちろん両方のエンジンを同時に持つことが一番なのですが、それはなかなかに難しいことです。
シリコンバレーをみる限り、たいていのメガベンチャー、特にネット系のベンチャーではトラフィックエンジンを先に作ることで、後の急成長を果たしています。トラフィックエンジンが強力であればあるほど、それを後々の収益は大きい。巨大なトラフィックがあればお金になる、というのはGoogleやYahoo!が証明していますし、だからこそFacebookやTwitterにも大きな何億ドルという時価総額がつくわけです。
(映画「ソーシャルネットワーク」で、共同創業者であるサヴェリンが成長著しいFacebookに広告主をつけて早く換金=マネタイズしようとすると、マーク・ザッカーバーグとショーン・パーカーが早期の広告掲載はクールさを失うからだめだと猛反対し、それがサヴェリンが追い出される要因の一つになります)
日本の場合は、VCから入ってくるお金が比較的小さいので、結果としてトラフィックエンジンを十分に育てる前にマネタイズエンジンを先に作らざるをえず、中途半端な大きさのトラフィックエンジンをお金に換えようとしてしまいます。これが日本発のメガベンチャーが育ちづらい理由です。
高度成長期であればソニーやホンダなどのベンチャーが、社会全体の成長に乗って巨大化できましたし、ITバブル期のIPOブームの際に資金を得て上場できたベンチャーもまた巨大化できました。いまのように経済が縮小気味な状況で、新しいベンチャーが育ちづらいのは、トラフィックエンジンを十分に成長させる時間と金を与えてもらえないことが、やはり一番大きな原因です。
それはともあれ、ネット事業であれ流通であれメーカーであれ、必ずこのトラフィックエンジンとマネタイズエンジンが必要です。トラフィックがあるということは知名度があるということにもなります。つまりブランドを作り、その価値をあげることです。すなわちブランディングです。トラフィックエンジンを成長させることとは、言い換えればブランディングのことだといっても過言ではないのです。
レストランであれば、一等地に店を構えられれば往来する人も多いし、よい店であるというブランド作りに役立ちます。しかしおいしくなかったり接客が悪ければ、せっかく集めた客足は落ちます。つまり食事をおいしく快適に提供するということがマネタイズエンジンということになります。
この二つのエンジンは両立しなければなりませんが、エンジンの性質が異なるため、成長させる際には分けて考える必要があります。必要なガソリンとオイルが違うのです。
広告宣伝は明らかにトラフィックエンジンへの燃料になります。そうして作ったトラフィックをうまく拾ってお金に換えるマネタイズエンジンは営業部隊になります。いってみれば、マーケティングとはこのトラフィックとマネタイズの橋渡しをする重要な役目になるのです。
二つのエンジンの相違を意識しつつ、どちらのエンジンをいま作っているのか、加速させているのかを考えることが事業経営にとって非常に大事なバランス感覚であると考えます。