「雇用を増やせ」に関する素朴な疑問

2011年01月05日 10:58

年末に税制改正大綱を発表するにあたって、菅総理が米倉経団連会長に対して「法人税減税を行うので雇用を増やしてくれ」と依頼をし、これに対して「お約束はできませんが」と苦笑いをされる場面がテレビで何度も放映された。

似た議論で、「企業は内部留保(これはバランスシート上の概念ではなく現預金のことを指しているように思えるが)をため込んでいるんだから、もっと雇用を増やせ」といった主張がなされることもある。

これらを聞くに連れ、疑問に思う。個別企業のキャッシュポジションは、経済全体の雇用量と無関係ではないか。


私の親戚は、高崎の駅前で喫茶店を営んでいる(タンシチューが自慢の「ラ・シーム」という店なので、ぜひ行ってやって欲しい)。伯母がフロアを回り、その夫が厨房に立っている。もしかしたら、アルバイトくらい雇っているかも知れない。しかし、仮に少し税金が少なくなったり、あるいは預金残高が増えたとして、来客が増えない限りは、正社員を増やすということはしないだろう。

企業経営者が雇用を増やすのは、仕事が(恒常的に)増える見込みがあるときである。仕事が増えるのは、来季の売り上げが増えそうか、もっと先の売上増に向けた先行投資を増やすときだけである。あるいは、もし現状のオペレーションをギリギリの人員でやっていたとするならば、雇用条件が緩和されたとき(賃金が安くなる、労働規制が緩くなる)場合に、いくらか余裕を持たせるために雇用を増やすかも知れない。いずれにせよ、税金が減ったり、利益が増えたからといって、需要増が見込めない限りは、雇用を増やすことはしない。

そして経済全体の需要が(持続可能な形で)増えないのは、一般的には消費性向が高い若年層へ仕事とお金が回っていないこと、将来の国のあり方がいつまでも示されないので不安が強くお金を使おうという気持ちにならないこと、そしてそのように消費者がお金を使わない状況を見て企業も投資をしようと思わないからではないか。更に、そのような状況を見て投資家も日本企業に投資しようと思わないこと、古い産業・弱い企業が国の補助を受けて生きながらえていて、新しい産業・強い企業へ人とお金がシフトしていかないからではないか。

持続可能な形で消費と投資が増えるように、将来に対する見通しをはっきり示すことと、社会全体の人とお金の流れを再設計すること、そして企業が人材を雇いやすくする(人材の流動性を高めること、労働規制を緩和すること)ことこそが中長期的に雇用を増やすために必要なことであり、これらに手をつけないまま、短期的・断片的にそれを企業に押し付けるのは、何ら本質的な解決にはならないのである。

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岩瀬 大輔
ライフネット生命保険代表取締役社長

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