国民をミスリードする「財政破綻しない論」 -井上悦義

2011年01月11日 12:26

僕は日本の財政を危惧する一人の若者だ。毎年巨額の財政赤字を続け、対GDP比の債務残高は約2倍におよぶ。このまま行けば、いつか財政破綻となるはずだ。身の丈以上の借金をすれば、破産するのは個人も国も同じだからだ。


しかし、その心配をものの見事に打ち破ってくれる方がいる。そう聞いて、僕は期待に胸を膨らませ、先日開催された、とある経済評論家のトークライブに飛び入り参加した。それまで彼の本は一切読んだことがなく、彼の理論を知らなかった。

彼はのっけからエンジン全開だった。「日本全体の金融資産は5500兆円あります。日銀が公開している日本全体のバランスシート(資金循環統計)から明らかです。今、政府の負債は1000兆円で、5500兆円まで国債を発行できるので破綻するわけがありません。」と断言し、日本破綻論をとなえる識者を次々に批判していった。

「おかしい」と程なく気付いた。彼の提示したバランスシートを紐解くと、例えばこういうことだ。

1450兆円の金融資産を家計が持っており、その全額を銀行に預け、銀行はその預金を全額使い、国債を購入したとする。すると、それぞれの貸借対照表は次のとおりとなる。

家計: 預金1450兆円/純資産1450兆円
銀行: 国債1450兆円/預金1450兆円
政府: 現金1450兆円/国債1450兆円

これを単純合計すると、4350兆円のバランスシートが完成する。彼の理論では、この場合、4350兆円まで国債を買えるというのだ。

明らかにおかしい。

上記の例で、家計が1450兆円の国債を購入する場合、銀行は保有する国債1450兆円を売却したうえで、家計に預金1450兆円を引き渡さなければならない。

その結果、出来上がるバランスシートは、

家計 : 国債1450兆円/純資産1450兆円
政府 : 現金1450兆円/国債1450兆円

となり、やはり、国債の買い余力は1450兆円までのはずだ。(ここでは議論の単純化ため、海外からの買いは考慮しない。)

当日、僕は質問をした。「二重、三重、四重にも膨れ上がっているバランスシートを基に議論をしても意味がないのではないか。本当の買い余力はいくらなのか。」

「5500兆円まで買える。」と最初は断言していたが、質問を進めるうちに、彼は答えに窮し、結局その日には答えられなかった。そして、後日回答(一部)が以下だ。(全文はhttp://ow.ly/3ApXl

政府は国民が国債を給料として受け取ってくれる限り、いくらでも発行することができます。その受け取りの上限は1400兆かもしれませんし、5500兆円かもしれませんし、1000京円かもしれません。国民が政府を信じる限り、その上限は無限と言ってもいいでしょう。”


「その上限は無限-。」 一夜明けたら、買い余力の上限がなくなった。

この理論が成り立てば、国民は政府を信じて、遊んで暮らせば良いではないか。手元にお金がなくなっても、政府が国債を刷り続けて国民に配る。それを国民は通貨代わりに使用する。これが永久にうまく回り続けるのであれば、僕達は働かなくても良い。物は海外から買えば良い。夢の国の誕生だ。

また、なぜ今まで破綻した国があるのか。“外貨建て債務”で、国債(紙幣)を発行し過ぎた結果、通貨価値が大暴落して、紙幣を刷っても刷っても外貨建て債務を返せなくなったからとでも言うのか。それでは、なぜ戦後の日本は、“自国通貨建て債務”だったにもかかわらず、事実上の財政破綻をしたのか。これは政府がデフォルト宣言をしていないから、財政破綻ではないと強弁するのか。

この手の理論は、国民に誤った認識を植え付け、世論を完全にミスリードしている。日本全体のバランスシートから論旨展開をしたいのであれば、重複部分を除き、企業でいう連結会計をしてから考えないといけない。そうしないと、正しい認識は得られない。

今の日本の財政はまぎれもなく危機的状況だ。ここ数年は税収以上の新規国債を発行している。家計の金融資産は10年以上、1450兆円前後で推移し、貯蓄率も年々低下している。高齢化もますます進展し、社会保障費も膨らむ一方だ。

「自国通貨建て債務」「経常黒字国」「対外債権国」「変動相場制」、これらは“破綻しにくい理由”であっても“破綻しない理由”にはならない。

この現状を国民全体で強く認識し、一刻も早く全英知を結集して、この問題解決に全力で立ち向かわなければならない。それを誤った理論で、国民をミスリードしていただいては困るのだ。

「無限に国債を発行し続けても国は破綻しない。」それは、ただの夢物語に過ぎない。
(井上悦義 私のブログ twitter

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