人材を劣化させる「就活断層」 - 『くたばれ!就職氷河期』

2011年01月22日 13:58

くたばれ!就職氷河期 就活格差を乗り越えろ (角川SSC新書)くたばれ!就職氷河期 就活格差を乗り越えろ (角川SSC新書)
著者:常見 陽平
角川SSコミュニケーションズ(2010-09-10)
販売元:Amazon.co.jp
★★★★☆


就活に走り回る学生には、日本の労働市場のゆがみが集中的にしわ寄せされている。特に「リクナビ」などの就職サイトが就活を大きく変えた。会社回りには物理的な限界があるが、サイトから応募するのは簡単なので、学生は手当たり次第に有名企業に応募する。その結果、人気企業のエントリー数は5万人以上になり、会社説明会も数千人規模になり、応募のハードルを上げるためにエントリーシートは複雑で膨大になる。

しかし大手企業は、実際には「20校リスト」と呼ばれる有名大学(旧帝大~MARCH)からしか採用したくない。本書によれば、都内の私大生がある金融機関のセミナーを予約しようとしたらすべて満席なので、不審に思って別名のアカウントをつくり、所属を「東大」にしたらすべてのセミナーに空きができたという。激増する応募を「足切り」するために、学歴差別がソフトウェアによって自動化されているのだ。

つまり学生は有名企業に集中する一方、企業は有名大学に集中し、それ以外の学生にも企業にもチャンスがない就活断層が拡大している、と著者は指摘する。就職サイトで見かけ上の募集範囲が広がったため、もともと大手企業には絶対に入れない学生が大量に応募し、リクルート活動にエネルギーを浪費する。他方、掲載料が数百万円もするリクナビにPRを掲載できない中小企業は学生を採用できない。

これに対して政府や財界が「卒業後3年間は新卒扱いにしよう」とか「会社説明会は4年生の8月からに自粛しよう」などと呼びかけても意味がない。こういう横並びの採用が行なわれるのは、長期雇用によって人材が企業にロックインされるため、中途採用では優秀な人材が採れないからだ。このような硬直的な労働市場を生み出しているのは、労働者を企業にしばりつける退出障壁である。

長期雇用の保障されている大企業では、幹部になれる人材は会社に残るので、転職するのは昇進の見込みのない二流の人材だと見られる。したがって企業は、中途採用で手垢のついた二流の人材を採るより新卒でピカピカの人材を採って社内で教育したほうがいい。この教育コストを回収するには長期雇用が必要だから年功賃金や年金・退職金などによって退出障壁を高める・・・という悪循環になっているのだ。

この構造は、私がサラリーマンだったころからまったく変わっていないどころか、就職サイトで悪化している面もある。企業の人事担当者は、口先では「尖った人材」や「肉食系のガッツのある若者」がほしいなどというが、実際に採用するときは4億円(生涯賃金)の固定費になることを考えると、汎用サラリーマンとして使い回せる有名大学の無難な人材になってしまう。

就活断層は求人と求職のミスマッチを拡大し、若者の就職機会を奪うと同時に企業の人材を劣化させている。これは日本の企業システムに起因する問題なので、規制改革によって簡単に解決できるとは思えないが、少なくとも政府が退出障壁を高くするような制度はやめ、企業年金をポータブルにして退職金や付加給付に課税するするなど、雇用慣行に中立な制度にすべきだ。

なお著者(常見陽平氏)には、2月2日のアゴラ就職セミナーで就活断層の実態をくわしく話していただく予定である。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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