無政府状態に入った政治

2011年02月18日 13:36

民主党から16人の分派が出て、分党論が公然と語られるなど、民主党の分裂や政権の崩壊は時間の問題になってきました。官僚も政権の足元をみて、電波法改正案は政務三役も知らないうちに各省折衝を通るなど、ほとんど無政府状態になっています。日本の政治がだめなのは自民党の長期政権が続いたためだといわれてきましたが、政権交代して症状がひどくなったところをみると、根本的な問題はもっと根深いと考えざるをえない。


それは最終決定権者の不在という欠陥です。日本社会は中間集団の自律性が高いため、もともと国家全体を統合する力が弱い。明治憲法では内閣は「天皇を補弼」する機関とされ、各省庁の合議機関でしかなかった。軍と官僚機構を山県有朋などの「元老」が統率していましたが、その権力の源泉は人事を握っていることでした。これは非公式の権力なので、山県の死後は軍の暴走を止めることができなくなった。

よくいわれるように、現在の状況は1930年代に似ています。政治が腐敗し、政争が続いて意思決定が麻痺した状況に対して「青年将校」が出てきて、国民も清潔な軍を支持したわけです。しかし現状では、自衛隊が政治に介入する動きはまったくない。日本の軍事力の実質的な中心は、質量ともに圧倒的に優勢な駐留米軍にあるからです。国家主権の究極的な基礎である暴力装置をアメリカに依存しているかぎり、彼らの承認なしにクーデタは不可能です。

これは平和を維持する上ではいいことですが、政治の混迷する原因になっていると思われます。戦後、GHQはいったん日本軍を解体したものの、冷戦に入ってからは再軍備を求めました。しかし吉田茂はこれを拒否して「軽武装」によって経済の復興を優先したため、60年代以降は改憲のチャンスは失われ、米軍の駐留が半永久的に固定されてしまった。このため、最高指揮官としての首相の権力が制約され、アメリカが暗黙の政治的決定権をもつ状態が続いています。

つまり戦前の政治においては天皇という「空虚な中心」を軍部が埋めたのに対して、現在の政治ではその空白を米軍が埋めているため、最終的な政治的決定ができないのです。さらに国家の経済的基盤である予算は財務省がコントロールし、立法権も各省庁がもっているため、内閣にも国会にも実質的な決定権がほとんどない。おまけに国会は参議院という厄介な制度(これもGHQの置きみやげ)のおかげで「ねじれ」が日常化し、機能しない。

だから今の無政府状態は、終戦直後にドタバタでつくられた憲法の欠陥が、自民党による実質的な独裁が終わってようやく顕在化してきたものといってもいいでしょう。現在の憲法は、民主主義国の制度として致命的な欠陥を抱えており、少なくとも軍の創設(それにともなう文民統制などの制度化)と衆議院の絶対的な優越を明記しないと、何も決まらないまま日本の政治経済が破綻するおそれが強い。

ところが自民党の石破政調会長も「改憲は不可能という前提で考えるしかない」と、最初からあきらめています。もちろん短期的には無理でしょうが、長期的に考えると、憲法を変えないで政治を正常化するのはむずかしい。大連立が正当化されるとすれば、この点でしょう。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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