無政府状態に入った政治

民主党から16人の分派が出て、分党論が公然と語られるなど、民主党の分裂や政権の崩壊は時間の問題になってきました。官僚も政権の足元をみて、電波法改正案は政務三役も知らないうちに各省折衝を通るなど、ほとんど無政府状態になっています。日本の政治がだめなのは自民党の長期政権が続いたためだといわれてきましたが、政権交代して症状がひどくなったところをみると、根本的な問題はもっと根深いと考えざるをえない。


それは最終決定権者の不在という欠陥です。日本社会は中間集団の自律性が高いため、もともと国家全体を統合する力が弱い。明治憲法では内閣は「天皇を補弼」する機関とされ、各省庁の合議機関でしかなかった。軍と官僚機構を山県有朋などの「元老」が統率していましたが、その権力の源泉は人事を握っていることでした。これは非公式の権力なので、山県の死後は軍の暴走を止めることができなくなった。

よくいわれるように、現在の状況は1930年代に似ています。政治が腐敗し、政争が続いて意思決定が麻痺した状況に対して「青年将校」が出てきて、国民も清潔な軍を支持したわけです。しかし現状では、自衛隊が政治に介入する動きはまったくない。日本の軍事力の実質的な中心は、質量ともに圧倒的に優勢な駐留米軍にあるからです。国家主権の究極的な基礎である暴力装置をアメリカに依存しているかぎり、彼らの承認なしにクーデタは不可能です。

これは平和を維持する上ではいいことですが、政治の混迷する原因になっていると思われます。戦後、GHQはいったん日本軍を解体したものの、冷戦に入ってからは再軍備を求めました。しかし吉田茂はこれを拒否して「軽武装」によって経済の復興を優先したため、60年代以降は改憲のチャンスは失われ、米軍の駐留が半永久的に固定されてしまった。このため、最高指揮官としての首相の権力が制約され、アメリカが暗黙の政治的決定権をもつ状態が続いています。

つまり戦前の政治においては天皇という「空虚な中心」を軍部が埋めたのに対して、現在の政治ではその空白を米軍が埋めているため、最終的な政治的決定ができないのです。さらに国家の経済的基盤である予算は財務省がコントロールし、立法権も各省庁がもっているため、内閣にも国会にも実質的な決定権がほとんどない。おまけに国会は参議院という厄介な制度(これもGHQの置きみやげ)のおかげで「ねじれ」が日常化し、機能しない。

だから今の無政府状態は、終戦直後にドタバタでつくられた憲法の欠陥が、自民党による実質的な独裁が終わってようやく顕在化してきたものといってもいいでしょう。現在の憲法は、民主主義国の制度として致命的な欠陥を抱えており、少なくとも軍の創設(それにともなう文民統制などの制度化)と衆議院の絶対的な優越を明記しないと、何も決まらないまま日本の政治経済が破綻するおそれが強い。

ところが自民党の石破政調会長も「改憲は不可能という前提で考えるしかない」と、最初からあきらめています。もちろん短期的には無理でしょうが、長期的に考えると、憲法を変えないで政治を正常化するのはむずかしい。大連立が正当化されるとすれば、この点でしょう。

コメント

  1. asoa より:

    憲法の改正に話を絞っても、各条文の改正案になるとまとまるものもまとまらなくなります。

    改憲をもっとも難しくしている要因である96条、ここを緩和することの1点突破で
    大連立なり総選挙なり行うべきです。

    そうすればその他の憲法改正の発議は、かなり容易になるはずです。

    第96条 この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。

  2. ganz007jp より:

     日本の政治が仕組み的に決定権を持っていないことについては賛同しますが、ただ現在の日本政治家に決定権を持たせたらよりおかしくならないかと思います。
     アメリカでは大統領を支えるブレーン達が背後にいるんだなと感じますが、日本では素人が話しているんだろうなと感じることが多いです。(話し方・言い回しひとつとってもオバマ大統領の方が研究しているんだろうなと感じる。)
     今までの自民党政治で、大臣はみんな官僚に聞いて決定しているから官僚主導となる。
     民主党政治で素人が思いつきで決定しているから、世界からナメられている。世論の反応で主張が一貫しなくなる。

     官僚の意見をすべて無視して、行政はできない。でも官僚の言っていることは事実なのかを調査できるブレーンを持っていないと検証ができないと思います。
     意思決定を行う上で重要なのは、賛成派と反対派の両方を聞いた上(メリット・デメリットの把握)で決定するのは当然だと思うのです。行政や世論の主張をプロの目で検証するブレーンが政府の背後にいる仕組みをつくらないと、結局メリットだけに目を奪われて、意志を持った決定にならないと思う。

  3. keroppie368 より:

    ヨーロッパでは国民投票がよく行われているし、アメリカでも大統領選挙と同時に州民投票が行われているのに、「国民投票法」ができた日本で未だに一度も国民投票が行われないのが不思議です。

    政治が機能不全に陥ったら、国民投票で国民に決めさせてはどうでしょうか?もしその結果、もっとひどい状況になったらマスコミが絶対に言わない言葉「政治がうまくいかないのは有権者がバカだから」が明らかになると思います。

  4. sasakitoorujp より:

    また大連立ですか?
    今の日本で大連立したところで大胆な改革などできないのだから、スイスのように国民投票法を成立させてTPPなど対立軸の個別の事案でも国民の意思を確認できるようにすべきでは。
    左派も自分の意見と違うから国民投票法反対と言わず、国家の最終決定は誰が決めるべきか議論を始めるべき。
    国民や官僚、政治家も民主主義とは何か考えるいい機会ではないだろうか。

  5. osakakamisama より:

    ある政治TV番組で池田信夫さんが怒るのを見て以降、このブログ記事を良く読むようになり、この記事に出会いました。
    さて、実際の政治は学問ではないので、どうしても 政党や官僚が恣意的に決めることは避けられないが、最終決定は天皇がいいと想う、しかし今日の世相ではそうはいかないですね、そこで国の運命を決める最終決定者は、国民総投票による総理(大統領)にすべきと考えます。
    なお、論旨が飛びますが衆院に絶対的優勢を与えると
    今のように売国奴政党が衆院に多数はびこると日本国は
    壊滅します。故に現2院政は安全装置(暴力装置ではない)
    としてよろしいかと。また民主主義において選挙による政党政治が行われるのだから、国民(有権者)が政治に鋭く賢く関与しどの政党が自分の現世利益を与えてくれるか良く見極めて投票すべきですね。最後に独り言を言えば”自国の領土を外国人に解放したり売国する国家(政治家)は今の 日本国以外には絶対にありえないですね”

  6. afternoon_dog より:

    結構、おおざっぱな展開のような気がする(^^;

    こうしたら、こうなるってのは、ルートの分岐が無数にあるから
    条件付けが足りないような気がする。(馬鹿なので、100%勘だけど)

    リスクとメリットの天秤(どっちがましか)も、なんか怖い。憲法の改正そのものは、必要があればすればいいけどさ、その内容がどうかな~。決断もろくなものじゃないかもよ。

  7. srx600_2 より:

    空虚な中心は、この国に’目的’が無いがために発現したのだとしたら、再び中心を意味で満たさない限り日本は変わらないと考えます。
    日本企業は「戦略が組織に従う」ことが多いという池田さんの記事がありましたが、政治も同様に組織だけがあり、思想が欠落しているので戦略も生まれません。

    これが記号の国の限界なら、日本の過去なんて全部捨て去ったほうがうまくいくかもしれませんよ。