「まねきTV事件」最高裁判決でクラウドも国内勢全滅の検索エンジンの二の舞か?

2011年02月24日 14:43

まねきTV事件およびロクラクII事件の最高裁判決(以下、「まねきTV事件判決」)直後から1ヶ月近く米国に出張した。ネットとテレビの融合状況を目の当たりにして、最高裁での逆転勝訴は日本のテレビ局にとっても不幸だったのではという観を強くした。その解説をする前に、判決を読んですぐに抱いた懸念を紹介する。権利者よりの日本の著作権法は国産検索エンジンほぼ全滅の結果をもたらした。同じ現象がクラウド・コンピューティング(以下、「クラウド」)でも再現するのではないかとの懸念である。


著作権法は著作物の利用と保護のバランスを図ることを目的とした法律である。著作物の利用には著作権者の許諾を要求して保護する一方、許諾がなくても使用できる権利制限規定を設けて利用に配意している。わが国の著作権法はこの権利制限規定を個別に列挙しているが、米国は使用する目的がフェア(公正)であれば、許諾なしの使用を認める包括的権利制限規定として、「フェアユース」規定を置いている。

検索エンジンは日本でも米国と同じ94年に誕生した。フェアユース規定のないわが国では、著作権侵害のおそれを回避するため、事前に検索するウェブサイトの了解を取る、オプトイン方式が採用されている。これに対して、米国では検索されたくない場合には、その旨を意思表示すれば、検索を技術的に回避する手段を用意する、オプトアウト方式で対応した。検索サービスは情報の網羅性、包括性が命であるだけに、オプトイン、オプトアウトの差は決定的といえる。案の定、わが国の検索サービス市場では現在、日本の著作権法が適用されない米国内にサーバーを置いたグーグル、ヤフー、マイクロソフトの米国勢が96%のシェアを誇っている。

遅まきながら事の重大さに気づいた政府は、09年の著作権法改正で個別権利制限規定を追加し、検索サービス事業者が日本国内にサーバーを置いてサービスを提供できるようにした。しかし、1%以上のシェアを持つのはドコモ1社のみの日本勢が巻き返しを図るのは不可能に近い。失われた15年はあまりにも大きい。

今回の最高裁判決によって、クラウドも同じ運命をたどるおそれが高まった。すでに日米で対照的な判決が出ているからである。ユーザーが自分のパソコンにある音楽をサーバーに保存し、携帯電話にダウンロードして聴くことができるサービスをベンチャー企業が開発した。MYUTA(ミュータ)とよばれるこのサービスに対し、東京地裁は07年に日本音楽著作権協会(JASRAC)の主張どおり著作権を侵害するとする判決を下した。

米国では米ケーブルTV大手の Cablevision がユーザーが自宅の録画機器ではなく、同社のサーバーに録画し、再生できるサービスを提供した。ネットワークDVRとよばれるこのサービスに対して、映画会社とテレビ局は著作権を侵害するとして訴えた。ニューヨーク連邦高裁は08年、侵害を否認する判決を下し、最高裁も上訴を受理しなかった。

この判決をまねきTV事件判決と比較すると新技術・新サービスに対する日米の裁判所のスタンスの相違が浮き彫りになる。まねきTVやロクラクIIはクラウドではないが、録画の主体が事業者かユーザーかが争われた点は共通しているからである。

まねきTVやロクラクIIでは親機を事業者側、子機をユーザー側に置いていた。Cablevisionではユーザー側にはテレビの受像機とセットトップ・ボックス(以下、”STB”)があるだけで、録画・転送用の子機もない。STBはもともとケーブルテレビ番組をテレビ受像機で受信するために必要な装置で、録画サービス提供用の装置ではない。ユーザーがリモコンを通じてSTBに録画の指示をすると、Cablevisionのサーバーに番組が録画される。

まねきTVでは親機、子機とも汎用品(ソニー製ロケーションフリー・テレビ)で、機器もユーザーが保有していた。システム全体を管理、支配しているのは、まねきTVではユーザー側、Cablevision では事業者側とみなしてよい。にもかかわらず録画の主体について全く逆の判断が下されたことになる。

こう見てくると、今回の最高裁判決はクラウドにも大きなインパクトをもたらすことが判明する。クラウドはデータをユーザーのPCではなくデータセンターのサーバーにあずけるサービスである。データの中には他人の著作物も含まれる。それを著作権者の許可なしにネットにアップロードすると違法だということになると、クラウド・サービスは成り立たなくなる。米国にサーバーを置いて、日本の著作権法の適用を免れる米国勢に日本市場まで制覇されてしまう。検索エンジンの時と同じ現象が再現することになる。

米国ではクラウドを提供するためのデータセンター構築にトレーラーで運べるコンテナ型のサーバーを使用しているが、日本では建築基準法や消防法などの規制で普及していない。このため、データセンター構築費が米国の倍かかるといわれている。この問題を解決するため国土交通省と総務省は建築基準法や消防法の規制から外す方針を固めている(2011年1月7日付 日経新聞)。入れ物についての法規制が緩和されても、中に保管するデータについてより大きな著作権法上の問題が浮上してくるようでは逆に規制強化になってしまう。

米国に比べて、すでに周回遅れのクラウドには法改正に時間を費やしている余裕はない。ただちにクラウドについての権利制限規定を追加する著作権法改正に着手すべきである。

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