今こそ、「国民性」の発揮はバランス感覚を持って ‐ 與那覇 潤

2011年03月15日 14:56

東日本大震災被災者の方々に心よりお見舞いを申し上げます。かつ現地で危機対応と復興に取り組まれている方々に感謝と尊敬の念を捧げます。

大学で日本史を教えているものの一人として筆を執りました。平素、比較的冷静に見える本プラットフォームでも、今回の我々の想像力を超えた天災に直面し、一方では短絡的・情緒的な日本人礼賛、もう一方では日本政府や東京電力等の関係機関の不備や、「不謹慎な一部の人々」への罵倒が散見されます。しかし、運営者の池田信夫氏も「日本人はすばらしい?」で示唆するように、両者はコインの裏表であり、一面的な議論は禁物です。


日本人が大規模災害にあたっても(おおむね)粛然と退避行動をとり、学校や公民館をはじめとする公的機関を避難所として活用できるのは、もちろん望ましいことです。歴史学的にみると、これは戦国時代の争乱状況の際、領主が城郭に領民を収容する慣行ができて以来のことで、統治機構の存在意義を「住民の生存の保障」に求める心性によって、アナーキーな「自力救済」(その典型が略奪)に歯止めをかける行動パターンが、近代以前から国民的な約束事(国民性)になってきた史実に由来します。

一方で見方を変えると、これは、日本社会には危機であっても(危機のときこそ)「統治機構に従順になる」性格があることと同義であり、それが近代の「非常時」には戦争動員の基盤ともなりました。さらに、危機であるにもかかわらず「統治機構に従順でない」メンバーに対しては、同じ結束力が排除の論理として機能したこともあります(関東大震災時の集団パニックは、その最大の悪例でした)。あらゆる国民性と同様、日本の国民性にも長短があるのであり、今こそその両面をしっかりと見つめた対応が必要と思います。

さて今回の震災、特に原発問題に顕著なように、このわが国で近世以来、統治機構の任務と目されてきた「生存の保障」=セキュリティとは、心情的にどうしても「100%」を要求してしまう領域です。もともとかような伝統があったところに、近代以降の資本主義化の要請に伴って極度にパンクチュアル(時間厳守)な就労・交通・産業の規律が持ち込まれた結果が、毎日ダイヤに「100%」忠実に運行する鉄道であり、終日「100%」開店してくれるコンビニでした。これはもちろん日本社会が誇れる特徴でしたが、その一方で「100%ではない」ものに対して極度に非寛容な風土を育みもしました。これもまた、日本人の国民性の正負両面が一体となっている事例です。

「100%安全」という神話の崩壊、「100%確実」とは断定しにくい情報の氾濫のなかで、「自分の想定が100%満たされないではないか」という苛立ちを人々が爆発させると、余震や放射性物質自体に起因する被害とは別個に、社会的なパニックが発生する危険性があります。もともと被災地ではない、ないしすでに生存自体に関わる危機が去ったはずの地域での過剰な買いだめ現象は、その一例ではないでしょうか。

いま生存の危機にさらされている被災地の方々、ないし計画停電が生命維持に直結しかねない難病者の方々が「100%の安全ではなかった」ことに憤り、「100%」の保障を求められるのは当然です。しかしそれ以外の、今すぐ生きる死ぬという問題に関わってはいない(私のような)日本人は、むしろそのような「常に100%の安心や確実性を求める」志向を、いったん解除するべきだと思います。政府の対応や東京電力の姿勢に瑕疵はあったでしょうが、その批判は危機が去り、被害の全容が明らかになった後でこそ、冷静に検討できるはずです。いま、絶叫調で「100%の正しさ」を要求し続けても、徒にフラストレーションを昂進させるだけに終わります。それは、本当に救いの手が必要な人々への対応まで、鈍らせてしまいます。

これだけの災害に「100%完璧」に対応できる統治機構など、世界中どこにも存在しません。逆に「計画停電」の有無に関わらず、ふだんから電車は時間通り来ず・開店時間が日によりまちまちで・サービスの質も人により一定せず・商品供給も安定していない国は、先進諸国も含めていくらでもあるのです。まして、それが被災地を支えるための電気や物資の逼迫によるものなら、(生命維持に直結する部門を除いては)むしろ定刻どおりに通勤しようという発想自体を止め、それに起因するサービスの低下に利用者側も寛容になり、「すべてを手許に買い揃えなければ安心できない」消費行動を控えることが重要と思います。いま、安全が確保された地域で求められているのは「100%」を追及し続けてきた国民性の「緩和」であり、熱狂ではないと考える次第です。

(與那覇潤 愛知県立大学准教授・日本近現代史)

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