遅きに失した統合本部に要求される機能 - 石水智尚

アゴラ編集部

今日になって、政府はようやく、福島第一原発事故に対応する統合本部を設置すると新聞で知るに及び、ついに我慢ができなくなり、この原稿を書く事にしました。地震発生から実に4日も経過した今になって、政府による統合本部の設置は遅すぎて話になりません。しかも、深刻な放射能汚染に対応してゆく可能性が高い現時点において、本部長と副本部長が済産業相と東電社長というのはどういう事でしょうか。


東電は原子力発電所を運営する専門集団ではあっても、そもそも大規模な事故に単独で対応する能力や資源を持っていたのか疑問です。原子炉の開発・建設は開発会社と建設会社が行い、個々の事故対応は、それぞれの設備を納入した下請け企業が行っていたと思われますから、今回のような広範囲の設備や機能の喪失に対しては、政府は地震の直後に統合本部を設置するべきでした。これは未来の日本政府への教訓としてほしいと考えます。

次に、このタイミングで設置された統合本部に要求される機能についてですが、事故対策チームとダメージ制御チームの2つを同時並行で稼動させるべきです。

1.事故対策チーム

原発内で生じているすべての問題を改善して沈静化させる作業を主に受け持ちます。政府は東電、原発設備に関連する主要企業(開発、建設、設備納入)の技術者と管理者、自衛隊、米軍、その他にもチーム責任者が必要と認める資源(人・物・金)を、政府の力で集めてきて対応させるべきです。

2.ダメージ制御チーム

事態が悪化する事を前提に、避難・輸送・治療などを受け持ちます。計画の作成では、最悪の結果を頂点として悪化状況を段階化し、各段階における計画を作成して準備を行います。政府は放射能汚染に詳しい専門家、被爆治療に詳しい専門家、周辺自治体関係者、避難や輸送を受け持つ自衛隊・米軍・消防、周辺や首都圏の病院関係者、その他にもチーム責任者が必要と認める資源(人・物・金)を、政府の力で集めてきて対応させるべきです。

ダメージ制御チームは事故対策が失敗した時の保険ですから、非常に重要です。事故対策に失敗した場合には、高濃度の放射能汚染が周辺避難民を襲う可能性があり、避難が間に合わない場合には多数の被爆患者を短時間で首都圏の大病院へ搬送し、被爆治療を開始できるように準備しなければなりません。

またダメージ制御計画を発動させる事態においては、統合本部の最高責任者は管首相であるべきです。そのような重大な責任と決断を、大臣と私企業の社長へ負わせるべきではありません。政府と管首相の早急な対応を切望します。

(石水智尚 インターネット・ソリューションズ・リミテッド役員)

コメント

  1. sobata2005 より:

    まったく逆の意見です。
    東電ががんばっているのに、これまで首相は邪魔ばかりしてきた。怒鳴りつけているだけだ。最悪だ。

  2. minourat より:

    池田信夫ブログで、 大前研一氏のビデオを視聴しましたが、 今までの政府の発表や新聞・ウェブのニュースよりはるかに状況をよく把握しておられる。 原子力から離れられたのは何十年も前なので、 現役もしくは現役に近い友人によく聞かれている。 

    Webみる限り、 保安院もたよりない。 日立・東芝・東電にはもっとよい人がいるとおもいます。 大前氏は広報責任者にするとよい。

    政府は金・機材・人の手配に集中すべきです。 現場に、 個々のことで何々すべきだと命令したというのはよくない。

  3. bobby2008 より:

    ライブドアのドア日新聞で紹介されていた下記記事を紹介します。福島第一原発で生じている問題について、これまで見た中で、原子炉の構造、炉心の事故に対する防御構造、障害対応の手順、漏洩する放射性物質の危険性などを、最も詳細に解説しています。ぜひご一読下さい。

    【MIT研究者Dr. Josef Oehmenによる福島第一原発事故解説】
    http://news.livedoor.com/article/detail/5414245/

  4. bobby2008 より:

    sobata2005さん

    私も最初は、東電に任せるべきと考えていましたが、この4日の経過を見て意見を変えました。仮に、福島原発の地震と津波に対する設計に問題が無かったとすれば、この問題は東電1社が背負うべき責任とはいえず、その意味で、東電へ怒鳴り込んだ管首相の意見は間違っています。

    また、今回の事故は、東電だけで解決できる範囲を超えているようです。考えても見てください。4号機の火災の消化は米軍ヘリが投入されたようですが、東電の社長なり現場責任者が、どのような権限で米軍ヘリの出動を「命令」できるでのでしょう?その前に、東電はどやって、米軍ヘリなら消化可能と知っていたのでしょう?東電と米軍の間には、既に国家が介入していますが、中途半端な介入は効率的とは言えません。

    故に、国家が問題解決の責任を負った上で、東電や自衛隊や米軍を含む、問題解決の資源を持つ組織を集めて、統合本部が包括的に運用しながら問題解決してゆくべきです。

  5. bobby2008 より:

    上記記事(日本語翻訳)は12日に書かれたもので、その後でいろいろと細かい訂正や削除が元記事に対して行われたようです。最新の解説は下記記事をご覧になる事をお勧めします。16日現在のUpdateもあります。ただし英語で書かれています。

    【BRAVENEWCLIMATE】
    http://bravenewclimate.com/

  6. ikuside5 より:

    現場のオペレーションは関係者にしかできないでしょう。これは分かりきったことだと思いますが。政府が管理するのはむしろ事態が鎮静した後の話か、もしくは全職員に退避命令を出すような最後の時でしょうね。今政府ができることは後方支援でしょう。

  7. bobby2008 より:

    ikuside5さん

    東電が福島第一原発で、現場がいまやっているオペレーションは運転ではなく大規模な障害対応です。しかも、単純な障害ではない。現場はもちろん障害対応のマニュアルに従っているのでしょうが、マニュアルに書いてない事はどうするのでしょうか?たとえば4号機の廃棄燃料の火事の際には、米軍ヘリへ消化を頼めとマニュアルに書いてあると?障害対応の手段がマニュアルの想定外の場合に、対応手段の調達を現場任せにしても良いと?私は東電の現場を否定するつもりはありません。むしろ、少ない資源の中で精一杯うやっていると思う。しかしこのような大規模最大では、努力より結果がより重要ではないでしょうか。国家が持つたくさんの資源を集中的に現場へ投入できるようにする方が、より高い効率で障害対応できるのではないでしょうか?もしも4号機の使用済み燃料からの火事が、現場の凡ミスが原因だとしたら、それは現場の資源が不足している事を示す明白な証拠では?

  8. ikuside5 より:

    bobby2008 さん

    ほとんど仰るとおりだと思います。このような想定外の大事故を起こして現場まかせではいけない。しかし政府の対応は遅すぎました。これは現場との連携がとれていないからとかなんとかいう以前の、政府の危機管理対応の稚拙さの結果です。

  9. bobby2008 より:

    8. kuside5さん

    ご返事有難うございます。「政府の危機管理対応の稚拙さの結果」とは仰る通りです。管首相は、「自分は原発の事を良く知っている」などとくだらない事を発言する前に、福島第一原発の事故を政府主体の指揮体制で早急に仕切りなおしするべきです。

    ネット上の新聞記事を追いかけている範囲の情報を見る限り、すべてが後手にまわっており、現場が典型的なデスマーチに陥っている事が容易に想像できます。民間まかせにせず、一刻も早く、国家の持つ資源を集中的に投入するべきです。

    別の見方をすると、東電が典型的な年功序列式サラリーマン集団の企業と仮定すれば、所長や管理職は、5年くらいの任期で社内を人事異動でローテーションするゼネラリストでしょう。そのようなサラリーマン管理職の方々に、結果が全ての大規模災害対応の指揮や責任を丸投げするのは、最初から荷が重過ぎて不適当であると考えるべきでした。