支援物資供給に必要な人道援助ロジスティクス-花岡伸也

2011年03月25日 14:11

災害時には,被災者への支援物資の適切な供給が求められる.支援物資受付については,それをまとめたサイトが参考になる.受付をしている自治体等の情報が整理されているので,物資の支援を考えている方は参照していただければと思う.


支援物資の供給においては,必要な物資を,それが求められている場所に,適切な時に送ることが望ましい.これはロジスティクスの考え方に他ならない.ロジスティクスは聞き慣れない用語と思われるのでWikipediaから引用すると,「顧客の要求を満たすために、発生地点から消費地点までの効率的・発展的な「もの」の流れと保管、サービス、および関連する情報を計画、実施、およびコントロールする過程である」と定義されている.元来は軍事用語であり,兵站とも呼ばれる.

現代の物流はロジスティクス抜きには語れない.ロジスティクスは経済の大動脈を担っており,あらゆる経済活動はロジスティクスの効率性に大きな影響を受けている.ロジスティクスでは情報収集が必要不可欠だ.例えばコンビニエンスストアで日常的に見られるのは,店員のPOSによる情報管理である.「いつ・どの商品が・どんな価格で・いくつ売れたか」という需要に関する情報を店舗毎に収集することで,店舗の適切な在庫管理やトラックの効率的な配送が行われる.情報通信技術の発達と共にロジスティクスの技術も高度化されている.

災害時のロジスティクスについては,人道援助ロジスティクス(Humanitarian Logistics)という考え方が近年発展している.紛争や災害などの緊急時に,難民や被災者への支援を目的としたロジスティクスのことである.国連組織のUNHRD(United Nations Humanitarian Response Depot)が途上国向けに人道援助ロジスティクスを実施しているほか,Relief Webのように人道援助が必要な世界の情報を集約しているウェブもある.途上国が主な対象となっていたが,2005年に米国を襲ったハリケーン・カトリーナでも人道援助ロジスティクスの必要性が指摘され,先進諸国でも注目度が高まっている.

通常のビジネスにおけるロジスティクスでは,「効率的」とは,時間や施設容量を制約条件とした,ロジスティクスシステム全体の費用最小化(あるいは利益最大化)を意味する.計算には,オペレーションズ・リサーチが利用され,数学的に高度化された手法が実務にも生かされている.しかし,人道援助ロジスティクスにおいてはこうした効率性は求められない.必要な物資を,必要な量だけ,必要な場所に,必要なタイミングで供給することが要求される.つまり,需給の一致,確実に過不足なく配送することが目的となる.人道援助の際には国家予算や寄付(義援金)が活用されることが多いので,もちろん費用は小さい方が望ましいが,費用最小化は目的関数とはならない.

個別の避難所では,不要な物資が不良在庫となってスペースを埋めてしまい,必要な物資が置けなくなってしまうなどの問題が生じることもある.そのためには,各避難所の需要(ニーズ)の情報を正確に集めることが何より重要になる.いまでも,必要な物資を求める情報提供がテレビ・ラジオ・インターネット等を通じて行われている.しかし情報がバラバラに提供されていると,支援物資の重複や不足がどうしても生じてしまう.よって,情報の一元化・集約が必要になる.一元化のための情報システムの構築について,私は残念ながらいいアイデアを持たない(アゴラ執筆陣諸氏の提言を期待したい).ただし,一元化の体制づくりについては,民間の力が必要であることは間違いない.国内大手物流企業にはロジスティクスのノウハウがある.こうした企業は既に救援物資の緊急輸送を行っている.だが,一企業が情報の一元化を担うことは容易ではない.官民が協力した情報一元化に向けた努力が求められる.また,星野先生は,被災地付近に大規模な支援物資物流センターを設置することを提案している.東北地方で空いている民間の物流センターを活用するというアイデアである.これを実現することで,各避難所における支援物資過不足の問題を小さくすることは十分期待できる.震災発生から2週間が経過し,各避難所との情報ルートはある程度できあがっていると思われるが,情報の一元化や大規模物流センター設置等によって,よりよい人道援助ロジスティクスが構築されていくことと思う.

国内・海外の各地から善意で送られてくる支援物資も,そのニーズがあるところに送られない限りは生かされないことになる.避難所で不良在庫を増やすことは,被災者への負担を増やすことにもなる.ロジスティクスを活用して,このような事態はできるだけ避けるようにしたい.幸いにも,東北自動車道が全線開通するなど,ロジスティクスシステムに必要不可欠な交通インフラ(道路・港湾)や情報インフラは,完全ではないが早くも復旧しつつある.この度の震災は被災した地域が広大で,避難生活が長期化することが懸念されている.政府は復興庁を創設する方針だそうだが,人道援助ロジスティクスについても,そうした場で検討されることを強く願う.

東京工業大学大学院 准教授 花岡伸也

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