意味不明な「国債の日銀引き受け」

2011年03月30日 09:44

震災の復興財源をめぐって議論が始まっています。一つの論点は増税か国債発行かということですが、20兆円ともいわれる復興財源を増税だけでまかなうことは困難なので、国債の増発は避けられないでしょう。それはいいとして、一部で高まっている「日銀引き受け」論は、意味不明です。


たとえば中川秀直氏は「今が財政法第5条のその特別な事由でなくして、何が特別な事由なのか」と国会決議による日銀引き受けを主張し、産経新聞の田村秀男編集委員は「100兆円の復興国債」の引き受けを主張しています。彼は

政府は国債の暴落懸念を引き起こさずに、100兆円を上限に国債の形で日銀から長期借り入れできるだけのゆとりがある。というのは、政府はこれまで国民の預貯金を100兆円借り上げて米国債を保有している。政府は必要なら、日銀に米国債を担保として差し出せばよい。

と書いているが、それなら普通に国債を発行して何の不都合があるのでしょうか。国債は今でも入札で順調に消化されており、震災後も長期金利はやや上がったものの、1.2%台で落ち着いています。100兆円の担保があって心配ないのなら、日銀に引き受けさせなくても、普通に入札すればいい。

彼らがよくいうのは「1930年代に高橋是清が国債の日銀引き受けでデフレから脱却した」という話ですが、当時は国債の市場がほとんどなく、大不況で買い手もいなかったから、日銀が引き受けたのです。国債を中央銀行が引き受けることは別に「禁じ手」ではなく、国債を直接買っている中銀もあります。市場で国債が消化されていれば、中銀が市場から買うのも政府から買うのも同じことです。

逆にいうと、政府が強制的に日銀に引き受けさせることが特別なのです。国会決議で日銀に引き受けを強制するのは「国債が通常の入札では消化できない」というシグナルを市場に送って長期金利の上昇をまねくおそれが強い。さらに井上さんもいうように、財政規律が失われて財政破綻が早まるリスクも大きい。

リフレ派のねらいは、国債の引き受けによって日銀に通貨を供給させようということらしいが、日銀は震災後に110兆円以上の資金を供給しています。これは市場から国債を買っているので、日銀が国債を引き受けるのと同じです。「100兆円規模の資金供給」は非常手段でも何でもない。このように初歩的なマクロ経済学も理解していないジャーナリストが「非常時」がどうとか勇ましい話で財政支出を迫り、金をばらまくのが好きな政治家がそれに便乗する図は、昔の自民党時代に戻ったような印象を受けます。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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