人は変化率に反応する - 『ダニエル・カーネマン心理と経済を語る』

2011年04月01日 10:15

ダニエル・カーネマン心理と経済を語るダニエル・カーネマン心理と経済を語る
著者:ダニエル カーネマン
楽工社(2011-03)
販売元:Amazon.co.jp
★★★☆☆


二つの発癌物質A、Bがあるとしよう:Aによって年間10万人が死ぬが、被害は漸減している。これを防止する方法は簡単で、摂取を法律で禁止すればよい。Bによる死者は50年間に2人だが、最大で数千人死ぬ可能性がある。これを防止するコストは数兆円かかる。死者を減らす政策として、どちらが効果的だろうか?

こう質問されると、誰もがAを禁止すべきだと考えるだろう。しかしAがタバコで、Bが原子力だと聞いたらどうだろうか。タバコはニュースにならないが、原発事故は毎日トップニュースだ。これはリスク管理という観点からは合理的ではない。あなたが男性の喫煙者ならタバコによる癌で死ぬ客観的確率は10%程度で重要だが、放射能による癌でかりに今年1000人が死んでも、リスクはその1/100だ。

しかしジャーナリストにとっては違う。タバコのリスクは減っているので今さらニュースにはならないが、原発のリスクは大きくなったので、人々の関心を引きつけるからだ。このように人間が客観的な絶対量ではなく変化率に反応することを実験で証明したのが、カーネマン=トヴェルスキーのプロスペクト理論である。

普通の人には特に新しい発見とは思われないだろうが、これは経済理論と相容れない。新古典派経済学では、人々は客観的な絶対量を見て期待効用を最大化すると想定しているからだ。それを基準にすると多くの人々のリスク態度は非合理的だが、期待効用を唯一の合理性と考える理由はない。人々の不合理な心理に迎合して「原発は危ない」とあおるメディアのバイアスも、部数を最大化する合理的行動なのだ。

本書は行動経済学の元祖のノーベル賞講演を中心にして一般向けの論文を集めたものだが、英語の読める人は元の講演を読めば十分だろう。

池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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