憂慮が深まる福島原発の状況

2011年04月04日 10:00

福島原発事故の帰趨については、私は1-2週間で大体の見極めはつくだろうと考えており、それまでは事態の推移を見守るしかないと思っていた。しかし、事故発生から3週間を超えた今も、見通しは極めて不透明で、関係者の対応の遅さや情報提供のあり方にも深刻な疑問を感じるようになった。

私の本業である携帯通信網の復旧については、現場の不眠不休の頑張りのお陰もあって、ほぼ目途がついてきたので、今回は、現在の国民の最大の関心事であるこの問題について、一市民の立場で少しだけ触れさせて頂く事にしたい。


何事においても、常に重要なのは、

1)責任の所在と指揮系統の明確化
2)公明正大で、且つ秩序だった情報の提供
3)正確な情報に基づいた迅速な決断と行動

の三点であると私は考えているが、原発事故の関係者による今回の対処を見ていると、この何れについても問題があったと断じざるを得ない。枝野官房長官の真摯な対応はそれなりに評価するし、既存メディアの対応もそんなに的外れだったとは思わない。(例えば4月1日付の日経の久保田編集委員の「信頼できる情報 内外に」と題する署名記事などは、よくポイントをついていると思う。)

しかし、当初、既存メディア経由で流された政府や保安院、東電などからの発表は、何れも楽観的に過ぎ、且つ断片的で、正鵠を得ているとは言い難いものだった。一言で言えば、これだけの大事故に際して、政府も関係者も、「国民が状況を正しく理解するに必要な情報を提供する」義務を果たしたとはとても思えなかった。

福島原発では、「原子炉自体」と「使用済み燃料の貯蔵プール」の二つが並存しており、前者だけでなく後者にも問題が生じていたわけだが、この二つを正確に分けて理解していた人は少なかったと思うし、強固に作られている事が繰り返し強調されていた原子炉の本体についても、それと外部を繋ぐ数多くのパイプや弁の詳細については、殆ど知らされる事がなかった。

また、1号機、2号機、3号機のそれぞれで起こった問題の違い(何故2号機では1号機と3号機で起こったような水素爆発が起こらなかったのかについての推測を含む)や、「3号機では危険性がより大きいプルトニウムを使っていること」なども、殆ど説明はされていなかった。

何らかの放射性物質が建屋から外に漏れ出していた事は、早い時点から明らかであり、従って、その「原因」や「規模」を知る事は、関係者は勿論、国内外の全ての人達の最大の関心事だった筈だ。何故なら、その事が分からなければ、今後問題が拡大するのか縮小するのかも分からないし、最悪時どのようなことが起こりうるのかも分からないからだ。そして、それが分からなければ、周辺住民の避難のあり方も決められないからだ。

然るに、その問題に対する言及は、当初は意識的に避けられていたかのようだったし、「(外部には放射性物質が洩れていないので)事故のランクとしてはスリーマイル島原発事故のレベル5より低い」という関係者の発言まであった。その後も、「良く分からない」という言葉が毎回繰り返されているばかりで、現在もまだあまり詳しい説明はなされてはいない。

全ての計器類が破損してしまった状況下でも、この「原因」や「規模」についての手掛かりを得るための手段は幾らでもあった筈だ。ロボットとまでは言わなくとも、遠隔操作の測定器やカメラを色々な場所に入れて、原子炉周辺の状況をより細かく知る事は出来た筈だし、放射性物質の拡散の度合いを知るためには、もっと早い時点で、もっと多くの場所に計測器を持ち込んで、大気、海水、土壌の汚染状況を時系列で継続把握出来た筈だ。

率直に言って、配線工事に従事した作業員が被爆して初めて、「大量の放射性物質を含む大量の水が建物の地下に溜まり、その一部が海中に放出されている」事が分かったというような状況は、常軌を逸しているとしか思えない。この事に象徴されているように、現状を見ると、全体の状況が把握出来ないままに手探りで行動し、問題が発見される度に「もぐら叩き」の様に対策が講じられているかのように思えてならない。

多くの人達が既に指摘しているように、今回の対策は、全てが後手々々に回っている事は否めないが、そういう体制を一日も早く是正するようにプッシュ出来なかった既存メディアのあり方にも疑念は残る。例えば、政府や保安院、東電の記者会見に際しては、ただ断片的な発表内容を伝えるだけではなく、その場で質問表を作り、2-3時間以内に回答を求めるというような形を作ることは出来なかったのだろうか?

幸いにして日頃からネットに慣れ親しんでいる人達は、既存メディアだけに頼っている人達に比べれば、より多くの情報を得られたと思う。私自身は早い時点では大前研一さんのBBTでの講演をネットで見て大いに啓発されたし、最近は、以前から原発の抱える問題点を訴え続けてきた小出裕章さん(京都大学原子炉実験所助教授)のブログや電話インタービュー(*)を注意深くフォローしている。率直に言って、政府や保安員、東電などの言っている事と、これらの人達が言っている事を比べてみると、明らかにこれらの人達の言っている事の方が分かり易く、且つ理にかなっているように、少なくとも私には思える。

何故そういう事になるのかと言えば、国としては必要以上に「不安心理」が広がることを警戒している為に、慎重な表現に終始しているからだとも言えるが、「不安心理」は、実際には、今のように、不十分、不正確な情報を小出しにしているからこそ生まれるものだ。「先ずは、『全ての事実』を正確に包み隠さず伝え、次に、その事実を踏まえた『多くの意見』を公平に並列して紹介し、最後に、『政府(或いは当事者)としてのメッセージ』を自信をもって語る」という事こそがあるべき姿ではないだろうか?

然るに、現状では、政府と当事者の姿勢には、「原発は絶対に安全」と伝えてきた過去のしがらみに捉われ、これをあくまで正当化しようというところが見え隠れしているように思えてならない。

世の中に「絶対に安全」等という事はあるべくもないのに、「少しでも可能性がある事を匂わせれば、確率論を無視した『絶対安全保証論者』を勢い付かせる」という事を推進論者は懸念し、それ故に「絶対に安全」という言い方を続けてこざるを得なかった事はよく理解している。しかし、それ故に「万一の場合」の想定はタブーとして切り捨て、「それに備える準備」を完全に怠っていたとしたら、それは犯罪だ。更に、この期に及んでもなおそれに拘っているとすれば、とても「責任ある立場」にいる人間の身の処し方とは思えない。

今からでも遅くはないから、「政府」と「原子力安全委員会」、「保安院」と「東電」は、少なくとも情報の出し方としては、上記のような「あるべき原則」に従ってやって欲しい。また、これまでの発表を聞く限りでは、上記の四者の言っている事にすら既に相互矛盾があり、情報伝達体制の第一歩から躓いている感があるので、先ずはこれから質してほしい。

更に、関係者と大手マスコミは、ネット上で流通している有力な見解にもっと注目し、これを広く紹介しながら、その上で「自らの見解(反対論でも構わない)」を示すようにして欲しい。「現在日本の原子力行政に関与している人達は、当事者である電力会社の幹部を含め、全て同じ学閥に属し、お互いに庇いあう傾向がある」という事がかねてから言われているが、李下に冠を正さないためにも、異なった意見を持つ人達を、この際どんどん内部の議論に入れていくべきだ。

最後に、「今何をするべきか」についても、少しだけ触れたい。知識に乏しい私自身は、引き続きこの種の発言は控えめにしたいが、手遅れになることを懸念するので、下記の二つの事についてだけは、この場を借りて訴えておきたい。

1.迅速な汚染水処理の為に、空いているタンカーを活用すべきこと。

冷却には僅かばかりの手抜きもあってはならないから、水の注入には最大限の努力を続けるべきは勿論だが、そうなると、現状では多量の汚染水がどんどん溜まっていく事になる。従って、一日も早く、いや、一時間でも早く、この除去を行って、復旧作業を可能にする為の方策を何としても早急に考えなければならない。

まさか、現在もなお汚染水がそのまま海中に放出され続けているとは思わないが、それなら、増え続けている筈の汚染水は現在どうしているのだろうか? とても気になる。少なくとも、未処理の汚染水をバッファーとして貯めておく巨大な水槽が今すぐ必要な筈だが、現在報道されているように、人口浮島や人工池の造成をこれから検討するという事では、時間がかかりすぎてしまう事を危惧する。

この問題を解決する妙案としては、「空いている巨大タンカー」を利用するアイデアあり、前出の小出裕章さんも数日前にこの事を提案されたようなのだが、タンカー会社が供出を拒否し、この案は実現しそうにないと聞いている。

一旦この目的に使われれば、もう二度と同じタンカーを本来の目的の為に使う事は出来なくなりそうだから、営利会社であるタンカー会社が先ずは拒否するのは当然だ。しかし、こういう時こそ政府が乗り出し、一定の補償条件を提示して、「即時供出」を強く要請すべきではないだろうか?(今は時間との戦いなのだから、早急な決断を促す為に、大手マスコミもその影響力を行使すべきだ。)

2.周辺住民の避難体制を見直すべきこと。

「20キロ以内は避難指示圏、20-30キロを屋内退避圏」と定めた現在の体制は、早急に見直すべきだと私は思う。問題点は三つある。

1)先ず「屋内退避」という決め方は極めて曖昧で、国の責任回避と見られても致し方ない。「強制ではなく、住民の自主判断」と言えば、如何にも民主的に聞えるが、実際には住民は判断のしようがない。商店は軒並み閉店し、必要物資の調達もままならぬ上、救急の外来病院も閉められ、救急の応援隊も入ってきてくれなくなったとなっては、残留住民は心細くなるばかりだ。

それでも「町を捨てた」「原発関係で働いている人達を見捨てた」と言われたくないという心理が働いて動けないとすれば、痛ましいばかりだ。むしろ、国がはっきりとこの地域を「避難指示圏」に入れた方が、住民はほっとする筈だ。ここでも「一旦決めた事を翻したくない」という面子のような事が理由で、国が逡巡しているのだとすれば、本末転倒も甚だしい。

2)次に、機械的に20キロ、30キロといった同心円を描いて、これをベースに「避難指示圏」というものを決めるというやり方は、何とも非科学的だ。これも小出裕章さんの受け売りになるが、風向きなどによって危険地域を割り出すシュミレーションシステムは既に存在すると聞くし、何よりも、もっと多くの測定器を持ちまわって実際に放射線量を測り、これによって肌目細かく危険度を決めるべきだ。

3)最後に、これが最も本質的な問題とも言えるが、現在の状況下では、残念ながら、「最悪時」まで想定して「避難指示圏」を定める必要があるのではないかと思えてならない。勿論、過剰な心配が広がることを防ぐ為に、「可能性は低いが、万に一の可能性を考えての措置」である事を、内外に明確に伝える事が必要だが…。

これまでは、多くの人達が、「短期間のうちにある程度の見極めがつくだろう」という希望的観測に基づいて物事を考えてきたと思うが、現状では相当の長期戦を覚悟せねばならないようだし、その間にどのような「想定外の事態」が生じるかもしれない。従って、避難の有り方も、長期的な観点から、且つ十分な安全ファクターを組み入れて決めるべきだろう。国は如何なる場合でも責任回避を計ることなく、「どんな事があっても国民の生命を守る」という強い責任感を持って、この非常事態に対処すべきだ。

(*) 小出裕章さんの電話インタービューについては下記にアクセスして下さい。
http://ameblo.jp/anmintei/entry-10849481550.html

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