復旧・復興は、「連立」ではなく「志願・選抜」を

大西 宏

国民の多くの望みは、お互いの利権をめぐる党派間闘争ではなく、東日本の復旧・復興にオールジャパンであたることだと思います。

また与野党ともにそのことが分かっているため、浮上しているのは「大連立」案ですが、それではまだ政治的な思惑が入り込む余地が大きく、かならずしもうまくいかないような懸念を感じています。いっそ党派の枠組みを外して、「志願・選抜」による斬新なリーダーの選抜とチームづくりを検討してはと思っています。


もともと日本では、どの政党もかならずしも政権党としての支持基盤をもっているとはいえません。小選挙区制度でいちおうはどこかの政党が政権与党となるのですが、いずれの政党も支持率が低く、圧倒的に多いのは無党派層という流動的な構造になっていて、政権の政策がうまくいかなければ批判票が野党に流れ、次の選挙で勝つという消極的な支持で政権党が決まるというのが実態でしょう。党派にこだわる意味があるとは到底思えません。

それよりも与野党ともに感じるのは人材不足です。今は与党民主党の人材不足が目立っていますが、自公政権時代に感じてきたのはやはり閣僚の人材不足でした。よく思い出していただきたいのです。自民党も政権をつくるだけの人材が揃っているかは疑問です。

しかも今や与野党のなかの一部の人を除くと、かつての保守・革新の対立であったような大きな思想の違いもありません。もはや現実的には意味をなさなくなった冷戦構造時代の保守・革新の対立を引きずった人たちも日本では多く残っていることは事実ですが、違いがあるように感じているのは幻想に過ぎないと感じます。

それぞれの違いが薄れるほど、企業間競争と同じように些細な違いをめぐって競争が激化します。企業間の競争では、同質化競争として価格競争になっていき、どの企業も利益がでない状態、つまり市場が血で血を洗うレッドオーシャン化が起こってきますが、政治の場合は、互いにどこにアメを撒くかの競争になってきます。
企業間の競争と違って、市場で損をするのはそれぞれの企業ですが、政治の場合、損失や不利益を被るのは、政治家ではなく、国民の側だから困ったことです。

そういったもはや意味をなしていない思想の枠組みではなく、新しい理念やビジョン、また日本の新しい道を切り開く能力が求められているのですが、民主党も供給側ではなく国民側にたった政策転換を掲げたものの、実際にはそれも破綻してきています。変革を生み出すパワーがいずれの政党にもないままに、現実に残っているのは財政再建への取り組みへの温度差ぐらいではないでしょうか。民主党が前回の総選挙で小泉政権との違いをつくりだすために、大きく改革路線から転換したように、違いをつくることが自己目的化してしまっているようにも感じます。

政党よりはむしろ個人能力の違いのほうが大きく、その個人の政策立案と政策遂行能力の違いを発揮できるのが、今回の震災の復旧・復興事業です。
また国民は震災の復旧・復興事業での党利による対立を許さないので、オールジャパンのチームをつくる素地ができています。

さて、どのようなリーダーとチームが必要でしょうか。この震災の復旧・復興にはふたつのリーダーとチームが必要だと思っています。

まずは、復旧を目指すリーダーとチームであり、こちらは最前線にたって、目の前の課題の優先度を判断し、まさざまな組織連携や調整を進め、迅速な行動がとれる実行力のあるリーダーとチームです。

もうひとつは、復興を進めるリーダーとチームです。こちらは、被災地の経済や社会の立て直しをはかることが目的になります。元に戻すのではなく、今後の被災地の新しい産業のありかた、地域コミュニティのありかたなどの大きなビジョンを描き、生産性の高い、豊かな地域をどう再生できるかです。

被災地の大きな産業のひとつである漁業を考えても、漁業そのものの大規模化、加工から物流にいたる全体のしくみの近代化を促進し、生産性をあげていくことが望まれます。豊かな漁業づくりのモデルにして、補償によるインセンティブづくりや法的整備なども必要でしょう。

こちらは、ビジョンを構想できるブレーンとしてのリーダーやチームです。なぜなら実際に復興にあたる主役は地方自治体であり、プランを提示し、予算を示し、復興を支えていくことが仕事になります。

この大きな仕事は、政治家として、いずれもやりがいのある仕事でしょうし、しかも使命感だけでなく、かなり自己犠牲も必要だと思われるだけに、いっそ、党派の枠組みを超えて、すべての国会議員から志願者を募ってみてはと思います。

今言われている「大連立」で懸念されることは、与党の政治的な思惑が混じったり、自民党も党の事情で人材をださざるを得なくなり、本当に必要な人材ではなく、自民党の「実力者」が入閣することになることです。

政党の枠組みを取り払って志願してもらい、与党と野党第一党で協議し、両党で選抜すれば文字通りオールジャパンになります。その後もこのふたつのチーム、またリーダーたちも国会承認を取りやすく、動きやすいし、与野党ともに不利にもなりません。

とほうもないことを言っているという批判があるかもしれませんが、それがこれからの日本のリーダーの世代交代を進めることにもつながってくるようにも感じます。

緊急事態に対処する行動力、将来を構想することは現在のリーダーの人たちよりは、もう一世代若い人のほうが体力的にも向いているはずですし、すくなくとも、オールジャパンで復旧・復興に取り組もうとしているという新鮮なイメージを、被災地だけでなく、全国民また世界に発信できるのではないでしょうか。