3.11以前と以後では、眼に映る風景は同じであっても中身は全く変わってしまったと理解している。3.11以前は通用した考え方や、価値観が、以降では全く通用せず、全て白紙から考える必要があると自戒してきた。
そして先程、何気なく読んでいたアゴラのこの記事が眼に留った。感情が抑制され、論理的で、誠に以て秀逸な記事と思う。
東京電力が提出した供給計画に福島第一原発7号機、8号機の増設が盛り込まれていたという。
あまりに稚拙だが、感覚が鈍いのでも悪意があるわけでもない。体質であり、組織の歪だ。
体質というのは、新しい環境変化に対し行動を変えるということができないことをあらわしている。そして組織的な硬直性がそれをさらに強化している。
決して立派な人間ではない私は、意識して東京電力の事を悪く言ったり、書いたりしないようにしている。しかしながら、敵前逃亡と思われても仕方がない様な同社清水社長の不自然な入院や、21箇所と聞く同社の豪華な保養施設に、寒空の下に震える避難民を受け入れようとしない同社の姿勢には余り良い印象を持っていないのは事実である。
そしてこの時期に、供給計画に福島第一原発7号機、8号機の増設を盛り込むと言う暴挙には流石に空いた口が塞がらない。
飽く迄私見であるが、東京電力という会社は今も3.11以前の世界にいて、決して我々が望むように3.11以降の世界に来る事はないのではないか?
もしそうであれば、東京電力に期待するのは福島原発事故の後始末と既存発電所の最大限の稼働とそれに伴う電力供給位で、停電回避をどうするか?は政府、地方行政、企業そして国民一人一人が考えねばならないのではと思う。3.11以前の世界に留まる企業に多くを期待するのは、リスクが大き過ぎると思うからである。
未だに、福島第一原発7号機、8号機の増設を言うのは3.11以前の考え方。即ち、東京、神奈川と言った大消費地から遥かに離れた場所に原発を建設し、送電線で電力を持ってくるという従来の思考パターンである。
3.11以降の考え方は、恐らくこれとは真逆で、消費地に近い所で、消費者自身が発電する事だと思う。そして、政府や地方行政は優遇税の設定や、個人や企業が自家発電で利益を得れる柔軟な電力市場を創設する事で、この潮流を支援すべきと思う。
具体例を列挙する。飽く迄叩き台であり、具体化には詳細検討が必要である事は言うまでもない。
先ず第一は、戸建て住宅はデイフォルトで太陽光発電設置にする。インセンテイブとして設備、工事代金は100%税金を控除してはどうだろうか?
これと並行して少し厳しいかも知れないが、太陽光発電を設置しない家屋に就いては、電気料金を2倍にするのも効果的と思う。
電力需要が旺盛な昼間に戸建て住宅が全て自家発化するインパクトは相当大きいと思う。
第二は、各工場自分が使う電力の自家発はマストとし、遥かそれ以上の電力を供給するよう誘導する施策である。既に発電設備を所有する工場よりは価格にプレミアムを付けて購入する。
これから発電設備を導入する場合は、費用の税額控除は当然として、10年位の利益の出る価格での長期購入契約で企業の背中を押すべきと思う。
第三は、地方行政による発電である。今回の東北震災で問題が顕在化したが、病院、警察、消防署、行政機関そして学校は何があっても停電にしてはならない。その為には、地方行政がある程度の発電能力を所有すべきである
エネルギー庁のこの資料が参考になる。
既にある程度の実績があり、技術的にも確立している様である。地方自治体が所有し、運用している全てのごみ処理施設を発電所にしてはどうだろうか?勿論、東京電力に張り合い、取って代ろうと言うのではない。地方ごとに拠点となる発電所を持つ事で停電による医療や行政の麻痺を無くそうと言う趣旨である。
脱硫、脱硝等の公害対策技術はゴミ焼却で培ったものがそのまま使える筈だ。また、設備も新たな建設はそれ程必要とせず既存のものと共用し、運転も今いる職員の増員で基本対応できると思う。
繰り返しになるが、3.11以降の電力行政の基本的な考えは、遠くに原発を建設して送電線網から持って来るのでは無く、最大限消費地で自前で発電する様に努力すべきと思う。
東京電力に、前エネルギー庁長官以下7名が天下りしている監督官庁の経済産業省は勿論反対するであろう。
それは、経済産業省も3.11以前の役所と言う事を意味する。これには、地方分権を加速する事で対応すべきと思う。
山口 巌
コメント
ご提案は電力供給そのものを分散させる方がリスク対策という事なのと思いますが、
(1)について、下記は太陽光発電協会のHPですが、消費電力のピークと全くあわない。http://www.jpea.gr.jp/11basic05.html
結局、真夏の冷房費を押さえる程度の効果くらいですね。
冬の暖房には出力が足りないし、結局エネルギーの必要な夕方ー夜間のために外部発電が必要になる。しかも昼間の供給が減るため、外部発電業者の稼働率は低下し、投資のモチベーションは下がる。結果、夕方の電力供給も不安定になるというジレンマでは?
(2)の対策について、企業はあっさり日本脱出するでしょう。多少の税控除があったとしてもコストアップは避けられず、消費者はそれを価格に転嫁する事を認めるとは思えません。そも、その自家発電の燃料はどうするのです?東北の今回の震災における燃料不足はどう起きたか、どう対策するか、全体を全く見ていらっしゃらないと思えます。自家発電をあまりにも簡単に考え過ぎと思う。しかも排気ガス処理、冷却などトータルの環境性、経済性は大規模一括に比べ著しく劣る。何を燃料に、誰が発電するのか、後始末をどうするのか、システムをきちんと考えてご提案いただきたい。
(3)について、なるほど一見もっともらしいですね、ですが、自宅の隣の警察署にキロリットル単位の石油が備蓄されて、それが漏れたらどうします?地震等の災害時にはそれが漏れる事を前提として災害計画を立てなくてはいけません。
多分「隣には建てないでくれ」と皆さん仰るでしょう。原発と何が違います?結局迷惑施設を増やすだけですよ。
と言う訳で、トータルの社会的リスクはエネルギー施設を小さく分散するほど増える、と言うのが結論と思います。
逆に原発を分散立地させ、送電の高圧化とかつ電気が日本で融通できるように周波数統一を急いだ方が良い。本来、この小さな島国で電気が融通できない事こそボトルネックなのだから。
東日本の諸氏のかたがたには夏を無事乗り越えて欲しいと思います。
今の政府・電力会社の調子で最悪の状況は
<計画停電していないところも電圧低下でいきなり停電>
でないかと想定しています。予想を超える需要の場合もありますし、発電所のトラブルもありうると思っています。
対策は「無停電電源装置」をかましておく、でしょうか?
特に精密機械にはかましておくのもいいかもしれません。(ただの私見です。)
http://ja.wikipedia.org/wiki/無停電電源装置
http://kakaku.com/pc/ups/
あるいは、
http://syatyuhaku.blog39.fc2.com/blog-entry-12.html
太陽光発電に税金のインセンティブを与えるとか工場に自家発電を義務付けるというのは産業政策ですね。池田信夫氏は一貫して「過去の政府の産業政策は全て失敗している、特定の産業や技術を政府が援助するのは無駄だ」と主張されている。私も全く同意見なのですが池田氏は何故か原発については擁護されている。原子力予算に毎年4500億以上計上している事でわかる様、原発の推進は政府の産業政策であった訳です。皮肉にも今回、原発についても失敗であったことが判明し池田氏の主張は正しかったことが証明されました。
山口氏は原発は今後推進できない、原子炉に代わる発電が必要とは認識されているようですが、行政の介入による「産業政策もどき」によって特定の技術に肩入れするというのは賛成しかねます。どういう技術が勝利を収めるかはやはり市場原理にまかせ企業間の競争によって決着させるべきです。その為にはまず発電と送配電を分離し電力事業の自由化を徹底させることです。
発電も塵焼却設備も公営でなく民営でやるべきです。一軒一軒に発電設備をつけるのはコスト高になります。東京のような大都会では1万所帯から10万所帯単位で熱電併給の発電設備をつくれば化石燃料を使用しても熱効率80%以上の高効率のエネルギーセンターを造れます。自然エネルギーについては一部の国でやっているよう家庭に選択肢を与え、太陽光の電力を使いたい人にはコストに見合った高い料金を払って貰うようにすればよいでしょう。私は昔、品川区の八潮団地に住んでました。近くのごみ焼却所の熱供給公社から風呂、台所用、暖房用の熱水の供給を受けてました。発電もすれば低料金の電気になるはずです。
「3.11」に特別な意味を見いだそうとしてみえますが、エネルギー問題の基本的構造に変化はないので、3.11を「教訓」にして非現実的な政策を採ると、その弊害の方が大きくなるでしょう。
中東情勢は相変わらず不安定ですし、途上国の経済発展は続き、資源の争奪戦は激しさを増すことは明らかです。これらは日本の努力で何とかなるという問題ではありません。
発送電分離や電力自由化も一時は世界的に進行し、日本でもすでに電力自由化は一昔前に比べればびっくりするくらい進んでいます。むしろ、世界では発送電分離ではなく、垂直統合や電力・ガスの統合、国境を越えた合併統合が進行中です。以前、東京電力は世界一の規模の電力会社でしたが、今はもっと大きな会社がごろごろあります。
資源獲得競争に対応するため、天然ガスなどの資源開発の権益を取得していこうとすれば、規模の大きさがものを言いますし、そうでなければ企業連合によって落札をはかるしかありませんが、こういうことはまだまだ日本は苦手です。
先ず、太陽光発電は駄目です。実は,それほど立派な働きが出来ません。何故なら、天候によって,地域全体の発電量が一斉に変わってしまうと言う根本手金原理的欠陥を有するからです。簡単に言うと,発電量が,0か100%かという発電方式に対するバックアップは、成立しませんね。
飽くまで,太陽光発電は、ベースになる安定した基底電力があって、その上で、好天による気温上昇などの変動に対応した,ごく短時間の一時的負荷変動に対応するに過ぎません。
太陽光発電は、系統に対して多大な擾乱を与える大変具合の悪いくせ者なのです。だから、太陽光発電に対する過剰な期待や、過剰な保護は、将来的には全く無意味であるばかりか、有害ですらあります。
で、今考えられる最も有効な手段は,燃料電池です。さしあたり、SOFCが有効です。此は、酸素移動型の燃料電池であり、白金などの高価な触媒を必要とせず、燃料の種類をほぼ選ばない発電手段にして,然も、高効率で、熱併給が可能なシステムです。当面、燃料は化石燃料ですが、その高効率性と、構造の特殊性によって、CO2の発生を現行発電より遙かに少なくすることが出来ます。
その一つの理由は、言うまでもなく高効率です。40%の発電効率を、60%に改善できます。熱併給では、75ないし80%に及びます。つまり、それだけで,簡単に30%のCO2を減らすことができます。つまり、原発は要りません。
更なる特徴は、SOFC形燃料電池の特徴として、排ガスが,理論的にはCO2だけである点です。つまり、排ガス中の炭酸ガスを、吸着処理したり、液化して深海底などに投棄すれば,排出はゼロです。で、燃料は,石炭ガス、天然ガス、可燃ゴミなどのガスなど、水素だけでなく,一酸化炭素が燃料として使えます。深海底の天然ガス、シベリヤの天然ガス使えますね。日本近海にも大量に眠っていると言われています。
燃料供給のインフラは,既に整備されています。大都市圏では,東京ガスなどのガス会社がネットワークを構築しています。地方では,プロパンガスの供給網が整備されていて、全国津々浦々に行き渡っています。最近は,バルク供給などの大型の供給設備も普及しています。此のプロパンを,液化LNGに替えるだけで、メタン化は可能です。
大規模災害にも,メリットはあります。何しろ、分散電源ですから、配管系が潰れても,ガスタンクやローリーを持って行けば何処ででも発電可能です。重要な施設には,配管系とバルク形を併設することも出来ますね。
次に,ネットワークです。
此は,既存の電力会社は,全て解体しましょう。発電所は,それぞれが独立採算で,ネットワークに売電する自営組織としましょう。原発も当面その一部として過渡的には受け容れます。
既存の,送電系と配電系は,別会社とします。地方自治体などの第3セクターでも良いかもしれません。発電会社から電力を仕入れて売ります。発電会社からの購入単価は、市場原理と,需給バランスに任せて、それぞれの原価に,利益を加えた適正価格で配電会社が買い入れます。売値は,その総平均単価によって決まります。余れば,買い入れを減らします。負荷が増加すれば、買い入れを増やします。此は,実は、周波数の微弱な増減によって系統を自動的に制御できます。電力が余れば,周波数が上がります。そこで、それぞれの発電機は,周波数を監視して、周波数の増減に応じてその出力を自動的に一斉に、増やしたり減らしたりします。此を全国規模で同時に実施すれば、50%くらいの負荷変動に対応できます。地域を区切っての発電の管理もスマートグッリトの考え方も適用できます。
燃料電池の規模は、家庭用として,3から5KW程度、企業、事業所向けに,100から1000KW程度のユニットを、地方都市向けに,数万KW程度のユニットを分散して配置しましょう。企業にはそれぞれの消費電力に応じた発電機を義務づけることも可能です。
太陽光発電はすでに指摘があるように、消費ピークとのミスマッチがありますし、そもそもまだコスト的に効率のいい物とはいえないでしょう。
それを半ばマスト化するのはどうかと思います。
単純に考えても家の建て方(屋根の傾斜の向き)で、太陽光発電が向くものと向かないものがありますしね。
さらに自然エネルギーは太陽光だけでなく、風力もあります。家庭用の風力発電機もありますし、こちらは夜間でもある程度風邪があれば消費ピークとのマッチングは太陽光よりはいいかもしれませんし、そういう意味でも太陽光発電に限るのはいかがなものでしょうか?
ただ、税金面でインセンティブを設けるのは賛成です。そういう形でできる人からどんどん導入することで技術も向上し、自然エネルギーのコストも下がるでしょうから。
2,3についてはたとえば各種のコジェネレーション発電に一定の税制上のインセンティブを設けることである程度の普及が見られるのではないかと思います。
ざっと調べた幹事ではkw当たりのコストはガスコジェネレーションあたりだと、原発とそれほど変わらない(設置コストの面ではですが)ようですしね。
その上で天然ガスに関していえば、メタンハイドレートの実用化を進めることでエネルギーコストの低減も勧められるのではないかと思います。
そして、配電網の改良を進め、スマートグリッド技術を、各所の自治体で復興をかねて進めることで、拝殿効率を上げることで電力不足を解消し、将来的には日本に新たにコア技術をもたらすこともできるかと思います。
配電レイヤーの改良は、自然エネルギーがより効率化したときには発電レイヤーを置換していけばいいだけなので、将来にわたって有効な技術ですしね。
クラウドジェネレーティング技術の発達が今後の日本のウリになれば、一石二鳥、今回の震災を奇貨とした日本の復権につながるんじゃないでしょうか。
基本的には二つに分けて考えるべきでしょう。安定した原料価格と安定した電力供給の電力と補助的電力。安定した電力は現時点では原子力しかありません。それを踏まえて補助的電力を自由化にするべきです。今はあくまでも電力を電力会社に売るというまでも無く、自分の消費電力をどう減らすかを補助電力の自由化の主眼にさせばいいと思います。いろんな発電法があるでしょうし、安定した電力は供給しているので、色々試せるでしょう。また50ヘルツと60ヘルツの垣根を取り払うことです。今回の件で東京電力の電気代が上がるのは間違いないでしょう。長期的な保証金をはらうことになるでしょう。すると境目の企業が電力を引き込むかもしれません。徐々に民間にインフラ整理をさせばいい。もっとも売り上げの落ちた莫大な負債を抱えた東電と中部電力が一緒になるかは未知数ですが。
今回の震災で最も復旧が遅いのは都市ガスである事は何度か他記事にてコメントさせていただいていますが、一定の戸数に集中して分配する分散型のプロパンガスシステムはあまり被害を受けておらず、しかも復旧が早かったように聞いています。
おそらく、ボンベスタイルで耐震性が高かった事とパイプラインも短く細いのでそこも良かったのでしょう。
それを鑑みますと、多少のコストアップにはなるかもしれませんが、ご提案の(3)のような形で一定の官公庁などをグループ化して中型の独立電源式にするのはどうでしょう。あるいは大型マンションにもエネルギーセンターのような形で、ご指摘のコジェネレーションシステムのようなものでも良いかもしれません。
ただ、熱供給については、どうでしょうかね。一般に家庭では朝夕の炊事時と入浴時しか熱需要がありません。家庭用の燃料電池では熱需要は「お湯」の形でためておく事になっています。実際にはどんどん冷めるので沸かし続けているだけではないでしょうか。
一度ガス給湯暖房設備を使ったことがありますが、あまりのガス代の高さに封印してしまいました。一方で夏場は無用の長物です。 需要から見て熱効率がそれほど高くなるようには思えません。
sudoku_smithさん
給湯暖房で苦労されたとのことですが、燃料電池の排ガス利用による熱併給システムでは、例えば、暖房熱源は,24時間連続使用で,室温を一 定に保つような方式が推奨されます。つまり、発電している限り熱は出ますから、その熱を,連続して暖房に使用することは,全く無駄にならないからです。
給湯だけ考えても,かなりの熱量は必要ですよ。但し、蓄熱槽はどうしても必要になりますね。
所で、夏の冷房には,熱は役に立たないとのご意見ですが、実は、吸収式冷凍機という冷房装置があります。ググってみて下さい。高熱を利用して,冷房するという方式です。此も,24時間連続冷房することで、効率よく,快適な住空間を実現できて,然も、フロンガスなどは使用しませんから環境にも優しい,願ったり叶ったりのシステムになります。
何れにしても、化石燃料は絶対駄目だという誤った発想を改めることから始めて下さい。
コメント戴いた皆様へ
記事は読む必要ないがコメントは是非読むべしとのTWが複数あり、記事を書いた調本人としては苦笑しつつ喜ぶしかありません。皆様とのご縁感謝しております。確かにTW指摘の通り幾つかのコメントは私の記事内容を遥かに凌駕しており是非今後、アゴラへの投稿をお勧め致します、
山口 巌