原発事故は「文明災」か

池田 信夫

山口さんの記事にもあるように、政府の復興構想会議の様子を見て私も不安を覚えました。特に厄介なのは、特別顧問の梅原猛氏が会議の議題に原発を加えるよう強く要求し、「原発事故は文明災だ」などと述べたことです。彼は「週刊東洋経済」などでも同じような話をしているので、これは持論なのでしょう。彼は次のように原発を断罪します:

一般の人々の道徳心が高い一方で、政治家、実業家、学者、芸術家などの多くが、道徳心を失っている。特に政治家は、金銭欲、権力欲にとらわれ、私的利益ばかり追っている。また、スリーマイル島やチェルノブイリの反省も生かさず、今回福島でも事故を起こした原子力発電を推進している東京電力は、優良企業と呼ばれてきた。しかし、これはどこか間違っていたのではないか。

今回の事故は、あらためて近代文明の是非を問い直し、新しい文明を作るきっかけにもなるのではないか。まずは日本が率先して原発のない国を作り、それを世界に広げていくべきだと思う。


そして彼は日本の課題として「代替のエネルギーとして太陽光エネルギーの研究を進める」ことと「過剰なエネルギーを浪費するような生活から脱却すること」を説く。こういう西洋文明が反自然的だという批判は古くからあり、たぶん代表はフランクフルト学派ハイデガーあたりでしょう。梅原氏の議論は、それにお得意の日本人論を組み合わせたものです。

問題は、そこから「原発のない国を作る」という政策提言が出てくることです。これもよくある話で、フランクフルト学派のロマン主義は、かつて学生反乱のイデオロギーとなり、その後はエコロジー運動の思想となりましたが、何ひとつ建設的なものを生み出さなかった。いくら「エネルギーの浪費からの脱却」を説いても、人々はいったん得た豊かな生活を捨てないからです。

梅原氏は太陽光エネルギーが原発の代わりにならないことぐらいは理解しているようですが、彼のいう「1000年先」を見越すと、化石燃料にいつまでも依存できないことも明らかです。原子力を拒否すると、資源のない日本の生活や産業は国際政治に振り回される不安定なものになりかねない。

エネルギー産業は、環境汚染や人身事故の避けられない「汚い産業」です。それはウェーバー的にいえば「悪魔との結託」によって地球の資源を略奪する産業なので、手段の良し悪しをを論じることには意味がない。実は化石燃料のほうが、潜在的には原子力より(大気汚染や事故で)多くの命を奪っているのです。梅原氏のようにエネルギー産業に「道徳」を求めるのは、手段を自己目的化した「心情倫理」です。

ハイデガーもウェーバーも認識していたように、科学技術という「禁断の実」を食ってしまった現代人は、もう昔の貧しい生活に戻ることはできない。可能なのは道徳的な生活ではなく、大きな悪と小さな悪の中からの選択であり、手段ではなく結果に責任を負うことです。そういう「責任倫理」から考えると、残念ながら原子力という凶悪なエネルギーを人類は捨てることができない。

いずれにせよ、復興構想会議で原発の是非を議論するのは、会議をますます迷走させて、切迫している復興の作業を遅らせるだけです。文明論は他でやっていただき、復興構想会議は都市計画や規制改革などの実務的な問題に特化してほしいものです。

コメント

  1. koshidame より:

    梅原氏などに原発を批判する資格などない。氏が帰属する学会などさしずめ「文化災」だろう。今の日本のマスゴミにいたっては「文明災」「文化災」どころか「咎められない犯罪行為」そのものではないか。

  2. senkome より:

    ルカ伝16章を見られよ。本来聖書が語るところは、ステレオタイプの西洋思想認識からはなれられない梅原氏やそれと基本的に同じな石原氏(地震は天罰だと言った)の様な硬直した道徳的宗教観に基づいているのではなく、本来トレードオフの状態にある人間の根本的矛盾をちゃんと見通しているところに、そのすごさがある。ニーチェが神が死んだと言わずとも、すでに聖書の中では人間の考えた神はことごとく死んでいる。

  3. ケット より:

    ウランは無限資源でしたっけ?

    石炭も石油も天然ガスもウランも有限、太陽風力は使えない、だとしたら遅かれ早かれ人類文明は破局です。

  4. kotodama137 より:

    賛成します。福島県以外は津波に対する設定の問題があったが天災です。福島県は天災だといえません。また福島県の復興には見通しがきかず、最悪の場合自治体ごと移転するかもしれません。同じ復興計画ができないので、そもそも切り離すべきだと思う。その福島県の復興計画の中で、福島県が脱原発を選べば、自治の観点から尊重すべきこと、なぜ日本全土になるのか。脱原発を選べない県が不道徳呼ばわりはおかしい。
    また原子力をやめることは結構なことだが、何に変えるのか?いつまでに行うか?を考える具体的な原子力エネルギー見直しの会議でも作って意見を言えば良い。
    脱原発がなけば、復興構想会議が進まないとは。震災に合った人たちを普通の生活の戻すのが、優先順位でそれをやらないほうが不道徳だと思う。梅原先生、尊敬していたのに、とほほ・です。

  5. sudoku_smith より:

    私は被災地域に住んでいますが、とにかく、生き残った人にとっては、どうやって復興するか、どうやって明日の仕事を得るか、どこに明日から住むか、が重要課題です。そんなときに文明論、とか言われるともう腹が立ってしょうがない。そんなくだらない事のために税金払ってるんじゃないです。こんなときに哲学なんか持ち込むのは非常識を通り越してバカです。もう、怒りを通り越えて、なんだか、あきらめるしかないんでしょうか。

  6. worldcomw より:

    『復興会議』なんてバカらしくてフォローもしていませんが、
    特別顧問って、どういう役割なんでしょうね。単なる飾り?名誉職?
    泥臭い実務に携わったことの無い「ええとこの ぼん」みたいですね。
    年寄りの中には、こういう発言を間に受ける人も多いのでしょうか。

    以下、復興方法について。
    孫氏が何か発表すると表明した際に、一集落に○○億円寄付するから
    新しい街を提案しろ(行政は規制緩和しろ)という内容だったら・・・と思っていました。
    これなら、各集落が金欲しさに真剣に将来像を考えるでしょう。
    他の村との競争ですから単なる復旧のような案は論外ですし、
    魅力的な案が多ければ、他の企業や個人も寄付するかもしれません。
    残念ながらそういうことは無かったわけですが、もし引退直後なら
    孫氏の性格からして自らそういう行動に出たかも、とも思います。

    どうしても会議をしたいなら、被災した小中学生を呼んで見せられるくらいの
    中身のある恥ずかしくない議論をしてほしいですね。

  7. 未来 より:

    小沢一派、民主党と自民党と言うふうに政争の目が出ているのが心配です。
    一部の右翼新聞も何を考えているのか政争に持っていこうとしている様に感じる。
    今は日本人が一致団結し知恵を絞り、この難局を乗り越えねばならないはずです。
    復興会議で原子力問題を討議するのは、東北の復興にとって何も良い事がないのには同意します。
    ただ、梅原さんが意見を言う事で政争が無くなり、東北の復興政策に実行力が伴えばと期待もします。

  8. kotodama137 より:

    再コメントになりすみません。感情的になりました。梅原先生は人間の我欲により原子力を生み出し、悲劇を招いたと言っているのでしょう。つまり我欲の文明をやめる事を提唱しているのです。それに対して池田先生は、人間の本質は我欲でありそれに対して現実的に対応すべきと言うところでしょうか?哲学と経済のそれぞれの立場から言っていて、どちらも正しいし、間違っています。だから永遠テーマーで、回答が出ません。しかし復興構想会議は急を要する会議です。平行線意見の対立が問題になり、進展しないことになります。こういうことって今の日本には多すぎるような気がします。