年金財政の課題-現実を帯び始めた「2031年・積立金の枯渇」

2011年04月26日 08:26

急速に少子高齢化が進む日本。公的年金の財政収支は悪化の一途を辿っている。

その中で、約120兆円の公的年金積立金の取り崩しが徐々に進みつつある。実際、年金積立金管理運用独立行政法人(通称「GPIF」)は2011年度中においても、約6.4兆円の積立金を取り崩す予定である(日経新聞2011年4月24日)。


実はあまり知られていないが、積立金の取り崩しは2009年度から実施されている。というのは、最近は、保険料・公費や運用収益といった収入よりも給付総額が上回る状況に陥っており、09年度は約4兆円、10年度は約6-7兆の積立金を取り崩してきたが、それが次第に定着しつつあるのである。


もし、この取り崩しの流れが本格的に定着してしまうと、「2031年に積立金が枯渇」するという厚労省の試算が現実を帯びてくる(図表)。

図表:積立金の経路(イメージ)

積立金の経路(イメージ)

この試算は厚労省が自らのモデルを利用して試算した公式のものであるが、大雑把の試算でも確認できる。というのは、もし毎年6兆円程度の取り崩しを継続すると、約20年(=120兆円÷6兆円)後の2031年頃に積立金が枯渇するのは明らかであるからである。

なお、2031年に積立金が枯渇する可能性があるという試算は、2009年5月26日開催の社会保障審議会年金部会に提出された「平成21年財政検証関連資料(2) (厚生年金の標準的な年金の給付水準の見込み等)」という資料の6ページ目に記載されており、ネット上で誰でも確認できるものであるが、不思議なことに、その存在はあまり認識されていないようである。

公的年金の「100年安心」を謳った「平成21年財政検証」(厚労省試算)では、物価上昇率を1%、名目賃金上昇率を2.5%、積立金の名目運用利回りを4.1%という前提を置き、公的年金の持続可能性を検証している。しかし、昨今の物価動向や賃金動向等を踏まえると、この前提は非現実的であるとの批判も多い。

そこで、これら物価上昇率等について、過去10年間の平均(物価上昇率▲0.2%、名目賃金上昇率▲0.7%、名目運用利回り1.5%)を利用して推計したところ、2031年に積立金が枯渇する可能性があることを明らかにしたのである。

もっとも試算は試算に過ぎないから、経済情勢が変化すれば、必ずしも2031年に積立金が枯渇するとは限らない。しかし、最近の6兆円規模の積立金取り崩しが継続すると、この試算に一致する可能性が高まりつつあるのは確かであろう。

しかも、日本財政は急速に悪化しており、3.11東日本大震災の復興対策の財源調達が厳しいことから、年金財源の一部である2.5兆円を第1次補正予算に利用することを決定している。これは理論的には国債発行を行っているのと同等の効果をもつ。また、これから第2次・第3次といった補正予算を組み、追加の復興対策を行う必要があるが、その際、第1次補正と同様に、年金財源の一部を活用し、その補填ができなければ、積立金の取り崩しを加速させる可能性がある。

原発・電力問題の対応や、迅速かつ効果的な復興対策が最優先課題であるが、年金財政を含む、財政・社会保障改革も喫緊の課題であることはいうまでもない。この際、「危機こそ=チャンス」の発想をもち、復興対策等と同時並行で、これまで停滞していた改革を進める政治的意志が求められている。

(一橋大学経済研究所准教授 小黒一正)

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