中部電力は法的根拠のない「要請」に屈服するな

2011年05月07日 17:04

浜岡原発についての首相の「停止要請」について協議した中部電力の臨時取締役会は結論が出ず、週明けに決定を先送りしたようです。これは当然です。首相の要請は閣議決定も経ていない個人的な「お願い」であり、それに従わなかった場合のペナルティは何もない。首相は6日の会見で「指示や命令は現在の法制度では決まっていない」と述べましたが、法的根拠のない要請(事実上の命令)を首相が公然と行なうのは言語道断です。


他方、これに従って中部電力が運転を止めると、火力発電の燃料費が今年だけで2500億円増えると予想され、これは今期の営業利益の2倍です。法的根拠のない要請に従って巨額の損失を出した場合、株主代表訴訟を起こされたら勝てないでしょう。それが歯止めになっているものと思われます。

実際には、政府は浜岡原発の運転を法的に止めることができます。いま東京高裁で係争中の浜岡原発訴訟で、中部電力に和解を勧告すればよい。これも強制力はないが、司法的な手続きで運転を差し止めることができます。これは日本政府として「浜岡原発は危険だ」と認めることであり、そういう意思表示なしに行き当たりばったりに運転を止めることはできない。

法的根拠なしに運転を止めるには、それによって中部電力のこうむる損害を政府が賠償する必要があるでしょう。2年間で5000億円の予算が必要ですが、これについて国側は「中部電力が原発停止を決めても、あくまで自主判断」と責任逃れをはかっています。日本の官庁は、これまでも口頭の「行政指導」で企業に指示を行ない、それが問題を起こすと「業者が勝手にやったこと」と逃げてきましたが、それを首相が白昼堂々とやったのは初めてです。

個人としての菅直人氏が、低迷する支持率を回復するために浜岡原発を止めたい気持ちはわかりますが、日本は独裁国家ではない。今すぐ運転を止める緊急性はないのだから、実行したければ法的な手続きを踏むしかない。こんな水戸黄門の印籠みたいなやり方は、法治国家では通らない。今回の要請を、産経以外のマスコミが肯定的に評価しているのにもあきれます。日本人は、まだ水戸黄門の時代に生きてるんですね。

追記:ツイッターで指摘があったが、電気事業法第40条に「経済産業大臣は、事業用電気工作物が前条第一項の経済産業省令で定める技術基準に適合していないと認めるときは[・・・]その使用を一時停止すべきことを命じ、又はその使用を制限することができる」という規定があるので、経産相が技術適合命令を出せば運転を止めることができます。その前に安全審査のやり直しが必要でしょうが。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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