過去を断ち切る

2011年05月09日 12:09

菅総理の浜岡原発停止要請には、さまざまな議論が起こっています。逆風をかわすためのパフォーマンスに過ぎないのではないかという批判も起こっています。
また、なぜこのタイミングなのか、どのような根據があるのか、30年以上を経た老朽化原発が19基もあること、世界では例のない活断層上に建っている原発などリスクを抱えた原発は他にもあることなども指摘されています。


おそらくどの指摘も正しいのでしょう。しかし、問題は過去に遡る必要があります。政府と各電力会社でどのような調整があったかは知る由もありませんが、日経が指摘するように「国策民営」で、原発がなしくずしとしかいいようのない無原則さで進められ、「日本の原子力安全規制は、過酷事故に対応する明確な法規制がない世界でも特異な形になった。国際原子力機関(IAEA)は改善を求めていた」(日経)とすら言われています。
国策民営でゆがむ安全 原発の法規制、見直しの時 編集委員 滝順一 :日本経済新聞 :
しかも3月に、日本の不幸として指摘したことですが、原発はタブー視され、問題に向き合わないままに推進されてきました。原発推進側と反原発運動側とで互いに妥協することも、冷静な議論をすることもなく反発しあい、それがやがて都合の悪いことは隠し、闇のなかでの政官民学の癒着が起こり、国民に実態が知らされることもなく進んできてしまったのではないかと感じます。自衛隊も、その存在の是非だけが問題となり、自衛隊のありかたはほとんど議論されることもなく、やがて日本の危機管理の意識が薄れてしまったこととよく似ています。
大西 宏のマーケティング・エッセンス : 日本がタブー視し、向きあってこなかった現実:

また中部電力の株主への理解が得られないという危惧がありますが、実際には原発は交付金が政府から支払われることで成り立っているわけで、それこそ「国策民営」であり、その隠れたコストを負担することなく収益をあげていたのだから、その境界線を引くことは難しいものと思われます。

しかも浜岡原発も過去に事故がなかったわけではなく、人災によって原子炉溶融の一歩手前までいった事もあること、また福島第一原発事故も津波による事故とされていますが、地震が起こった段階で原子炉が毀損していた可能性がなかったとは検証されていません。

さて、この浜岡原発で、想定外の事態で、もしもの事態が起こったときを考えるとぞっとします。福島第一原発事故よりもさらに甚大な被害が発生することは想像に難くありません。東西の物流の大動脈である東名高速道路も、また東海道新幹線も使えなくなり、日本経済に致命的なダメージを与えかねません。

もともと、東海大地震は過去に100~150年周期で発生しており、しかも浜岡原発が、その想定震源域に立地しています。このような問題を抱えた場所に原発を建てたことが問われなければならないのですが、どうも議論が菅総理の「思いつき」に向かっていることが気になります。

池田先生が指摘されているように裁量行政の問題も懸念されますが、おそらく、議論すればするほど、問題はうやむやになっていくのでしょう。日本の政治がそれほど解決力があるとは信じていないので、積み重ねで成り立っている過去を正すことはそう簡単ではありません。

経産省の発想に菅総理が飛びついた、そこに総理としての実績を残すために乗っかっただけかもしれませんが、おそらく合理的なプロセスを踏んだ場合は、過去を裁ち切り、流れを変えることはできなかったのではないかと感じます。

原発行政は、原発が合理性をもったものかどうかとは別問題として、もはや国民の合意を得ることはできず、大きな修正を余儀なくされます。もはや老朽化した原発はその運転延長に合意が得られるとは思えず、また新設の原発を受け入れるところもないでしょう。

問題はあるにしても、また経産省や菅総理の思惑がなんであれ、軽い総理だから、できたことだと感じます。おそらく中部電力も受け入れるものと思います。

これで、エネルギー政策が見直され、もともとはあった発電、送電、配電の分離の機運も高まるでしょう。原発の新設が困難なことから、自然エネルギー発電へのニーズが高まることで、この分野へのさまざまな企業からの参入が促されることを期待しています。それが日本の新たな競争力の創出とつながってくるのではないでしょうか。

これで菅総理の役割は終わったわけで、東北復興、日本再生にはもっと大胆でアグレッシブなリーダーに変わることもあわせて期待します。国民はともかく、与党であれ野党であれ、政治家は菅総理を引きずりおろすだけのパワーがないのなら、建設的、かつ献身的に動いて欲しいということだけは申し添えておきます。

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大西 宏
株式会社ビジネスラボ代表

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