総務省に組織されたICT利活用戦略ワーキンググループでは、ICT利活用の観点から、東日本大震災の教訓と今後の施策について議論している。構成員の共通意見は「今こそ、あらゆる分野で電子化を推進すべき」であった。
遠隔医療の件は興味深い。今までは対面を原則として、遠隔医療はきびしく規制されていた。厚生労働省は、3月23日に「遠隔診療によらなければ当面必要な診療を行うことが困難となった被災地の患者については、初診及び急性期の患者であっても、患者側の要請に基づき遠隔診療を実施して差し支えない」との事務連絡を出したという。これは緊急の規制緩和に過ぎないが、実績を積み上げていくことで、遠隔医療が全面的に導入されていくよう期待したい。
電子政府も同様である。国民一人ひとりに共通番号を割り振り、社会保障や税に活用しようという検討が進んでいる。災害時にこの共通番号を活用する方向で要綱ができあがりつつあるという。着の身着のままで逃げだした人が持っていたわずかな情報から本人を特定し、適切なサービスを提供していくためには、情報のヒモ付けが必要で、これに共通番号を利用するというわけである。
情報通信のインフラ整備でも新しい発想がないものだろうか。たとえば、公共ブロードバンド移動通信システムは、どのようにしたら整備よいのだろうか。
公共ブロードバンド移動通信システムとは、今までは音声が中心だった、被災地等の正確な情報の共有のため、機動的かつ確実に映像伝送を行おうというものである。地上テレビジョン放送のデジタル化により空き周波数となるVHF帯の一部を利用する予定である。
テレビの完全デジタル化は間近だが、公共ブロードバンドの整備計画は整っていない。関係者に事情を聴いたが、警察・消防・国土交通省などは、公共ブロードバンド用の帯域を分割してそれぞれ専用のシステムを、それぞれ個別に整備するのだそうだ。これでは投資額は増えるばかりなので、結果的に整備が遅れる恐れがある。次の災害の時にも、公共ブロードバンドは利用できないかもしれない。どうしたら、前に進めるのだろう。
そんなおり、欧州でAuthorised Shared Access(ASA、認定免許人との共同利用)という新しい考え方が提案されていることに気付いた。これは、公共無線帯域が利用されていない間だけ、他の認定免許人にこの帯域の利用を認めよう、というものである。公共無線は社会的に維持すべきものだが、利用されない時間が長い。その時間は他の利用を許しても構わないが、だれもが自由に利用できるようにするとコントロールがむずかしいので、あらかじめ認定した免許人だけに限定しよう、というのがASAの発想である。利用率が25%である公共無線帯域200MHzにASAを導入すると、650億ユーロの経済効果が生まれるという。
公共ブロードバンドにASAが適用できないものだろうか。普段は民間の免許人が、公共ブロードバンド用の帯域を一括して利用して経済的な利益を挙げる。災害時には公共用に切り替え、警察・消防・国土交通省などが共同で利用するという考え方だ。彼らはそれぞれの用途にあった映像が必要なようだが、周波数帯は一つでも、それぞれが必要とする映像を別々に伝送するのは、今の技術ならむずかしいことではない。経済的な利益が期待できるのだから、システムの整備費は公共ブロードバンドを含めて民間の免許人側に負担させればよい。周波数オークションで民間の免許人を選定すれば、国庫収入を得ることもできる。
公共用ではないが、すでにわが国には類似の利用例がある。テレビ中継用FPUとラジオマイクは同じ帯域を利用しているので、FPUが利用するときにはラジオマイク側は利用を控える、というのがそれである。FPUとラジオマイクの場合には切り替えは手動だが、公共ブロードバンドの場合には認知無線技術を採用して自動的に切り替えればよい。
大震災は、すべての行政分野に発想の転換を求めている。思い切って、世界で初めてASAを採用して、日本の力を世界にアピールしよう。
東洋大学経済学部 - 山田 肇