福島原発1号機で発見された新事実にどう向き合うか

2011年05月13日 17:45

5月12日、東電は「1号機の圧力容器で完全に水から露出した核燃料が過熱して容器底部に落下し、直径数センチ程度の穴に相当する損傷部から水が洩れていると見られる」と発表した。これまで「最悪事態」と考えられていた「メルトダウン(炉心溶融)」が実際に起こっていたこと、そして、「滅多なことでは破損しない」とされていた圧力容器が破損していたことを認めたのだ。


このことが確認されたのは、原子炉建屋内に入った作業員が水位計を調整した結果、「燃料棒の頂部から1.65メートル低い位置まで水で満たされているであろう」というこれまでの推定が覆され、水位は頂部から5メートル以上低いことが分ったからだ。こうなると、燃料棒の大半は既に溶けたり崩れたりして、圧力容器の底部に落下したと推定せざるを得ない。溶融した核燃料の温度は3000度近い高温である一方、直径約4.8メートルの圧力容器底部には97本の制御棒と34本の中性子計装管を貫通させる為の多くの溶接部位があるので、この部位の多くが高熱で損傷していると見るしかなくなる。

ということは、ここから相当量の放射性物質を含んだ水が外部に流出したことは明らかだ。多くの報道では「流出した可能性がある」といった抑制した表現を使っているが、「明らかだ」という表現の方が適切だろう。そもそも、今回の発見があろうとなかろうと、その可能性は容易に推定できた筈だ。一号機の圧力容器の中には、これまで累計で1万トンを超える(最近は毎時8トンと言われている)水が注入されてきている訳だから、そうでなければ計算が合わなくなる。勿論水の一部は瞬時に沸騰して水蒸気として外部に排出されているのだろうが、注入された水の全てが沸騰するわけはない。

燃料棒の大半が溶融してしまっていると推測されている状況下では、流出を続けている水には相当量の放射性物質が含まれている筈だ。この水の大部分がなお建屋の中に滞まっていることを祈るが、常識的に考えればあまり期待は出来ない。色々なルートから海水の中に流れ込んでいるか、地中に浸み込んでいる恐れは十分ある。水蒸気として外部の大気中に排出されていったものも同様で、これは風に乗って大気中に拡散し、やがては雨となって地表に戻ってくるだろう。

多くの報道は、今回の発見がもたらす最大の問題として、「一日も早い冷温停止を目指す東電の現在の工程表が大幅な見直しを余儀なくされ、問題の解決に要する時間が大幅に増大するだろう」としているが、それは、「安心出来る状態になる時期が遅れる」という以上に、「拡散する放射性物質の総量が更に大きくなる」ことも意味する。「炉心溶融」によって大量の放射性物質を燃料棒内に閉じ込められなくなった上に、「圧力容器の破損」によって圧力容器内にも閉じ込められなくなっていることが明らかになったからだ。

幸いなことに、溶融した核燃料は、外部は100-200度程度の低温の「かさぶた状」になって、圧力容器の底部でなお辛うじて水に浸かっている様だということだが、内部は3000度程度にも及ぶ高温のままだろうから、一瞬の油断もなく冷却を続けなければならない事に変わりはない。この為には間断なく大量の水を注ぎ込まなければならないという事であり、この水はたちまちにして放射性物質に汚染された水になる訳だから、これを如何に処理するかという問題が残る。

更に問題なのは、1号機でこのような事態が確認されたからには、2号機、3号機においても同様の事態を覚悟しなければならないという事だ。問題の規模が3倍になるだけならまだ良いが、場合によれば、2号機、3号機ではもっと悪い状況も覚悟しなければならないかもしれない。3号機はプルトニウムを使っているという事なので、汚染の問題はもっと深刻になるかもしれない。更に、休止中の4号機も含めた「使用済み核燃料プール」の問題もまだ残っている。考えれば考える程、気が挫けそうになるまでの複雑で深刻な問題を、我々は抱えてしまったということだ。

継続して大量に漏れ出していく放射性物質の拡散を最小限に抑えるのは、あらゆる手段を動員しての「総力戦」であると同時に「時間との戦い」でもある。しかも、この戦いに投入される戦闘員は、相応の知識と技能を持った人達でなければならないので、限られた数の人達に大きな負担がかからざるを得ず、この人達の健康を如何にして守るかも、極めて難しく且つ重要な問題として残る。具体的には、もっと大きな規模での「水棺化」しか手がないのではないかという人もいるが、何れにせよ素人の我々には手も足も出ない。

しかし、一つだけ我々にも出来ることがある。それは、拡散している放射性物質の実態を正確に把握し、必要な具体策の策定に役立たせることだ。この分野なら、我々携帯通信事業者も何等かの役割を果すことが出来ないでもないかもしれない。いたるところに無線基地局があるし、携帯端末は殆どの人が如何なる場合でも肌身離さず持ってくれているものだからだ。

現時点でも、色々な場所で計測を行い、それをデータベース化してくれている人達は存在する。しかし、計測の仕方を統一し、且つ計測値に対する信頼度を上げなければ、良かれと思ってやったことでも却って仇になる恐れもなしとはしない。やり方を間違えると、正しい対応策を考え出す前に、風評被害を拡大することにすらなりかねない。

しかし、統一されたやり方で、緻密な計測を組織的且つ広範に行い、その結果を分析して、適切なアドバイスと共にこれを公表することは、無視出来るような数値に対する過剰な反応や不適切な行動を抑制し、風評被害を防ぐことにも役立つだろう。日本が国を挙げてこれを粛々と行い、国民がこれをベースに冷静に行動する姿を見せ付ければ、不信感を持って日本離れを起こしている諸外国の人達も、再び日本に賛嘆の眼差しを向け、日本に戻ってくることを躊躇しなくなるかもしれない。

世の中には、過剰な反応を恐れて事実の公表を躊躇する人達が多いが、これは全く逆効果だ。恐怖や妄想は暗くてものが見えないところに生じるものだ。「心配を招くような事実を伏せておけば、誰も心配はしない」という考えは甘すぎる。何も見えなければ、人々は実態以上に悪い姿を想像し、必要以上に心配する。

インターネット時代には、想像力を掻き立てる種には事欠かない。事実関係はよほど強く訴え続けなければ、雑音や興味本位の情報にかき消されてしまう。外国人の場合は実態がより見え難いから、想像に頼る比率が大きくなり、この危険は更に高まる。

危機になればなる程、何事も愚直にやる方が、結局は一番良い結果を生むことになるような気がする。誤魔化しはよくない。悪い事実でもきちんと正確に公表し、分かりやすい解説と適切なアドバイスをこれに添えれば、人々は信頼し、もう不必要な憶測はしなくなる。今はそういう時だと思う。

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