菅政権と電力行政 - 古村 彰

2011年05月17日 08:19

ここへ来て菅政権は「浜岡」や「東電、賠償スキーム」などを次々と政治主導で決断しています。これらの決断に対し、経済的合理性や科学的知見の観点から様々に議論されているところです。ここでは、この二例から明らかになった政権の主張とレトリックから彼等のロジックや思惑を明らかにし、そこからこの政権は政策をどのように実行するのかを考察します。例えば論議をよんだ金融機関への債権放棄を要請した「枝野発言」にしても彼等なりの合理性が認められるのです。

結論を先に述べますと、彼等は彼等の価値観の世界で合理的に判断しているということです。普通の経済学の知識を持つ人がいくら批判しても、それは交わるところのない別世界のものであります。現政権が今後どのような判断・行動をとるかについて予測する場合にも、彼等の思考方法を知っておけば大きなサプライズになることはありません。そのような問題意識をもって、「浜岡」と「賠償スキーム」を検討いたします。


1. 浜岡
政府の「要請」という形で中部電力にボールは投げられました。中部電力は延べ2日間の取締役会を経て、「今回の要請は事実上国の指示・命令と同義であり」とした上で、首相の「要請」に応じることになりました。官邸の動向については、次のように報じられています。

  読売オンライン(2011年5月10日03時03分読売新聞)
  官邸、極秘協議1か月…法的根拠なく行政指導
6日午後4時半過ぎ、菅首相が首相官邸の執務室に、海江田経済産業相、原発担当の
細野豪志首相補佐官、枝野官房長官、仙谷官房副長官らを呼んだ。4月上旬から1か月にわたり、「浜岡原発停止」を極秘裏に検討してきた中核メンバーだ。(中略)
弁護士出身の枝野氏らが、その場で原子炉等規制法などの関連法や政令のページをたぐった。「やはり条文をどう読んでも、法的に停止を指示することは出来ない。行政指導で、中部電力に自主的な協力を求めるしかない」。異論を唱える者はいなかった。

ここで留意しなければならないのは、この記事のソースは明らかに5人の出席者のうちの誰かであるということ。つまり、官邸に有利になるよう誘導するバイアスがあるのです。この記事のポイントは、(1)1ヶ月の時間をかけて検討してきた、(2)行政指導しか手段はない、というものです。(1)は別として、(2)については中部電力とは全く見解を異としています。「指示・命令」では事があったときの政府の責任は格段に重くなります。「行政指導」であれば、業者の自主的な協力であり、政治的には政府は非常に有利な立場に立つことが出来ます。問題があった場合には、自主的に判断した中部電力を適切に指導すればよいからです。5月13日の国会でも、菅首相は「行政指導」であることを明言しており、この記事を裏付けています。

「国民の皆様の生命と安心を考えてのこと」といいながら、この政権は責任の裏付けのない政治決断を誇示しているのです。

2. 賠償スキーム
ここで目に付くのは、東電の存続と上場維持を図るというものです。その理由は、被害者への賠償と電力供給を両立させることとされています。被害者への賠償と電力供給を両立させるために東電を存続させ上場を維持することは論理的にはつながりませんが、そのことはここではわきに置いておきます。

東電を存続させる効果を考えると、その狙いがはっきりとしてきます。東電がある限り、世間の非難は東電に集中し、政府はその渦中から一歩引き下がって、国民感情に反する東電を指導すればよいのです。いわば、東電を避雷針にしてわが身を守ろうとするかのようです。そのことを象徴するのが、枝野官房長官の「債権放棄」発言です。経済学を少しでもかじった人には違和感を覚える発言ですが、東電存続という文脈からすると枝野発言は彼等の中では合理的な発想といえます。彼等のロジックでは、破たん処理はもとより国営化とか事業売却により賠償を国が引き受けるということはありえないことになります。

1と同じくここでもこの政権の責任回避姿勢が表れているのです。今後もこの政権による政治主導による決断があるでしょう。それがどのような決断であるかは予測は出来ませんが、どのような構図によってスキームを組み立てるかは、この二例によって見当をつけることが出来るのです。

(古村 彰 経営・会計コンサルタント)

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