「メルトダウン」は致命的な事故ではない

2011年05月17日 09:38

私は以前から「メルトダウン」という言葉は曖昧なので使うべきではないと言ってきたが、どうやら最近は「燃料棒がすべて溶けて圧力容器の底に落ちること」という日本独自の定義ができたようだ。NHKの科学文化部も、そういう意味で使っている。和製英語としてはわからなくもないが、海外では通用しない。


東電が最近になって上の図のような解析結果を発表し、地震の翌日に炉内の温度が2800℃になっていたことがわかった。これを「隠蔽していた」などと騒いでいるメディアもあるが、これはデータを解析して初めてわかったことで、隠していたわけではない。むしろ私は、別の意味で驚いた。


ブログにも書いたように、炉心溶融=メルトダウン=圧力容器の破壊というのが、原子力業界の常識であり、燃料棒が2800℃にもなったら、鉄の融点(1500℃)をはるかに超えるので、圧力容器も溶かして核燃料が格納容器に漏れ出し、容器の底の水蒸気と反応して爆発し、高温の死の灰が上空に立ち昇る――というのが従来の想定だった。

おそらくこの2800℃というのは、冷却水の失われた部分だけの最高温度で、水のある部分はもっと低かったのだろう。この温度では被覆のジルコニウムも燃料ペレットも溶けるので底部に落ちたと思われるが、圧力容器の損傷は限定的だった。つまりメルトダウンで圧力容器は破壊されなかったのだ。

これは重要な発見である。今までの原発事故のシミュレーションでは、メルトダウンが致命的な事故だと想定したのだが、少なくとも冷却水が残っていれば圧力容器は破壊されないことがわかったのだから、軽水炉の安全性はかなり高まったことになる。1号機の状態はまだ不安定なので何が起こるかわからないが、すでに核燃料はかなり冷却されているので、チェルノブイリのような事故には発展しないだろう。

要するに、反原発派のいうようなハルマゲドンは起こらなかったのだ。大量の(低濃度の)放射性物質が放出されたので汚染は大きいが、人的被害は限定的だろう。原発の被害は、主として農産物などの経済的な損害だ。これは数百人が死ぬ航空機事故に比べても小規模な災害で、原発を特別扱いする理由はない。

もちろん事故が起こらないように万全を期すべきだが、原発の死亡率は長期を考えれば火力発電よりも小さい。飛行機が(移動距離あたりで)自動車より安全なのと同じである。経済性も無駄な再処理施設を捨てて埋蔵処理すれば改善するし、イノベーションの余地も大きい。当面、日本で原発の新規建設は不可能だろうが、長期的にはオプションとして残しておいたほうがいいと思う。

池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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