官僚機構が発狂するとき - 『日本中枢の崩壊』

2011年05月20日 18:41

日本中枢の崩壊日本中枢の崩壊
著者:古賀 茂明
販売元:講談社
★★★★☆


著者は、経済産業省の大臣官房付という現役のキャリア官僚である。それがこのように日本の官僚機構を全面的に批判する本を出すのは、それなりの覚悟があってのことだろう。ただ、彼は「反体制分子」というわけではない。本書に書かれている彼の仕事ぶりは、与えられた仕事を淡々とこなす常識的なものだ。

その歯車が狂ったのは、福田内閣の渡辺喜美行革担当相に「一本釣り」されて国家公務員制度改革推進本部の事務局長になったときからだ。自民党や霞ヶ関の反対を押し切って国家公務員法の改正案をつくったものの、渡辺氏がいなくなると法案は骨抜きにされてしまった。

政権交代で改革をやるはずだった仙谷由人行政刷新相は、著者を経産省に戻してしまい、彼は官房付の窓際ポストで飼い殺しにされる。そして彼が国会に参考人として呼ばれたとき、仙谷官房長官が「こういう場に呼び出すやり方は、はなはだ彼の将来を傷つける」という異例の答弁をして注目された。

著者もいうように、日本の官僚は個人としては優秀で仕事熱心な人が多いが、組織の利益を侵害される問題になると、人が変わったように組織防衛に狂奔する。私も経産省から懲戒処分を受けたが、このときも当時の官房長(北畑隆生)の行動は常軌を逸していた。この原因は著者も指摘するように、キャリア官僚の身分が法的には保障されていても、実は不安定なことにある。

建前上は、官僚は解雇されない終身雇用だが、キャリアの場合は同期が局長になると「肩たたき」されて、省内にいられなくなる。年功序列を維持するかぎり、天下りポストを確保しないと行き場がなくなってしまうのだ。他方で天下りに対する風当たりは強くなる一方なので、年功序列を廃止する公務員制度改革は、長期的には官僚の利益になるはずだ。しかし彼らは逆に、年功序列を維持するために「現役出向」というもぐりの天下りを始めた。それを著者が批判したのが、問題の仙谷発言のきっかけである。

本書のテーマはこうした官僚機構の批判だが、著者の思い出話がまじってやや散漫だ。せっかく公務員制度改革を手がけたのだから、日本の官僚制度についてもう少し深い考察がほしかった。それは著者が晴れて「自由の身」になれば、本格的な研究書として上梓されるのかもしれないが・・・

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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