「脱原発」には覚悟が必要だ

2011年05月31日 00:16

ドイツのメルケル政権が、2022年までに原発を全廃する方針を決めた。福島事故でにわかに反原発ムードが盛り上がった日本とは違って、ドイツはもう10年以上、脱原発をめぐって議論が続いており、ある種の「覚悟」があってのことだろう。Spiegelの論評をみても、来るべきものが来たという感じで、驚きはない。

原発をなくせば事故のリスクはなくなるが、その生み出すエネルギーもなくなる。電気が減ったら、みんなが節約して「エコな生活」が実現すると思っている人もいるようだが、そんなことは起こらない。たとえばA.T.カーニーの分析によれば、日本のすべての原発を廃止すると、2020年に最大26%の電力不足が生じる。このギャップをすべて再生可能エネルギーでまかなうとすると、電気料金を70%値上げする必要がある。

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こうした変化は、GDPを減らす効果はあっても増やすことはない。一般家庭にとっても電気代の値上げは実質的な「貧困化」をもたらすが、最大の影響は産業用の電気料金である。鉄鋼・アルミ・石油化学など電力使用量の大きい産業では利益率が大幅に下がり、投資が減り、海外シフトを余儀なくされるだろう。エネルギー節約の余地もあるが、産業用の省エネはかなり進んでおり、節約できるのは5%程度である。

「日本は重厚長大産業を脱却しなければならないのだから、エネルギー価格が上がるのはいいことだ」という人がいる。しかしサービス業の競争力が上がって労働人口が移動するのは日本経済にとってプラスだが、重厚長大産業の競争力が下がって雇用が減るのは、失業を増やすだけである。脱原発の最大の被害者は、エネルギー多消費産業の労働者と、工場の立地する地方都市の住民だろう。

再生可能エネルギーは、原発の代わりにはならない。現実には、原発を減らした場合の代替エネルギーとしてもっとも有力なのは、ガスタービンである。原発をLNG火力に切り替えれば電力不足も値上げも防げるが、地球温暖化を警戒するドイツ人は、この選択肢も取らないようだ。このような禁欲的なエネルギー政策が破綻するのは時間の問題だろうが、他国が実験するのはやってみればいい。

ドイツ人のように、こうしたメリットとコストを十分議論した上で脱原発を決めるなら、それはそれで一つの選択だと思う。しかし「自然エネルギーは原発より安い」などというのは、こうした本質的な選択をごまかして国民をミスリードするものだ。民主党政権が脱原発に舵を切ろうとするなら、こうした数字を国民に見せた上で判断を求めるべきである。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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