政策提言 分野別 ストック(資産)活用戦略

小幡 績

昨日の記事の補足、分野別具体論である。

ストック(資産)活用戦略という政策による改善余地の大きな分野について述べる。


資産活用戦略が、唯一の日本経済における公的関与により改善余地の大きな分野だ。

日本最大の埋蔵資産は、埋蔵金ではなく、良質な労働力。個人差が大きいにもかかわらず、ジェネレーション、現在の年齢・性別でカテゴリーごとに捨てられたり、人不足だと嘆いたりしている。日本においてネットワークビジネスがかつて隆盛だったのは、生きがいを求めていた潜在的に高いコミュニケーション営業能力のある主婦が飛びついたからだが、同じことは現在でもあらゆるところでいえる。居酒屋でもスーパーでもコンビニでも吉野家でも、バイトの中に能力の高い人材が多く、彼女ら彼らが現場のリーダーになれるということが日本の壮絶な現場力の一つの要因となっている。これは大学教員業界も同じで、薄給でしかも週一回の仕事をきちんとやってくれる信頼できる秘書など、日本の主婦以外にどこにいるだろうか。

そのほかにも埋まっているカテゴリーは多くある。フリーター世代が多く育ってしまった就職氷河期世代も、一定の再教育をすればさらにパワーアップして、現在限定されている職種以外に広がることができる。また、今の若者は、というが、ここでは今の20代前半は男女サッカーだけでなく、極めてレベルの高い労働力層だ。そして、賃金も仕事も会社名というブランドも、多くを望まず、極めて現実的、実質的だ。最大の無駄である就活に群がっている学生たちだけを見ていると誤る。大卒以外の若者のレベルはばらつきは大きいが極めて高く、経済としてはフリーターという古いカテゴリーに嵌めずに、宝の山だと考えたほうがいい。シュウカツの若者たちも、大企業側の問題で、活力のある大企業がシュウカツ前線から撤退すれば流れは変わるだろう。そうなると大学教育の再構築が求められるが、これは別の機会に議論する。

定年という過去の制度も当然改めるべきだ。65としても多くの人が仕事があれば働く。悠々自適を求めていないのに、追い出すのはなぜか。それは選別という対人的に面倒な行為を回避しているからだ。銀行融資もそうだ。すべては目利きが重要なのに、それから逃げている。株式投資もベンチマーク投資に未来はない(ベンチマークを目利きするというのが最重要の投資戦略だが、これこそ別の機会に)。定年は、やっかいな年功序列の中で使えない上司を何とか切り捨てる最後の手段だが、もはやそんな悠長でコストのかかるメカニズムに頼る余裕はない。大企業の人事部は社会的・文化的な変革が求められるが、それは無理なので、単に定年をむしろ下げて、再雇用の仕組みを再構築すべきだ。再雇用は格下げ、バイト派遣的に使われているが、いわゆる年俸制的にフリーランスのプロとして扱う形にすることが望まれる。これは政策対応というよりは経団連の問題だろうが、どちらにも期待できないので、個別企業の自己変革を待つことになろう。変革しないところは生き残れないので、時間はかかるが実現はすると思う。

まとめると、資産の有効活用の最大のテーマは人的資産の活用で、子育て支援にもつながる。やるべきことは基本的に多数派の支持を得られるものが多いと思われ、人的資産の有効活用による成長戦略、という枠組みを設定することだけで流れは変わる可能性がある。

次に重要なのは、金融資産ではなく、土地資産だ。金融資産は妄想だ。妄想だから扱いによって大きく化けたり、消失したりするのであり、実体がある場合もない場合もある。しかし、土地は実体である。それを金融商品として扱いバブルを作るのは、金融市場の常だが(証券化しなくとも土地は常に個別性の高い資産として商品化されてきた)、バブルであろうとあるまいと、土地は常に実体であり、それが実体的なリターンを生み出す。この土地を有効活用しているとは言えないのが日本だ。自宅のある街並みが美しくなるのなら、私は所得が三割減ってもそれを望むが、実際にはそのような決断をする必要はない。三割はともかく、人々みながそれを評価するから資産価値は上がるのであり、土地所有者でその土地を長期保有する意図があり、愛していれば、誰もが経済的にも利益を得ることになる。

長期的には、市町村に開発の権限を委譲し、市町村において街づくりというよりは地域環境整備局を作り、そこに良質の人材を集める。そして、地方自治体がリーダーとなって、地元の住宅、都市、地域環境整備に関して物理的な地域のグランドデザインを作り、それに見合った開発でない限り許可しない。土地の固定資産税は税率に関して増税し、質の高い地域、土地活用を地方自治体がインセンティブを持って取り組むように組織をデザインする。街づくり開発は、デザイナー、地域全体のデザイナーを誰かがやらないといけない。このままでは美しい日本は失われる。観光だけでなく、われわれの幸福度が大きく変わってくる。日本の資産のほとんどは不動産であり、国債などの金融資産の価値がなくなっても、土地の価値はなくならない。なくなったときは終わりということだ。だから、市場経済に任せる任せないはアプローチの違いであるが、デザイナー不在は単なる致命的な不備だ。金融市場と同じくデザイナーとその維持をする監督権が重要。

同時に公的資産の活用も必要だ。これは自民党も民主党も大好きだが、民主党的にはすべて売却という方向だが、これはもったいない。大きな塊の土地は今後、価値は上がる一方だ。そのような土地は手に入らないからだ。したがって、公的な土地資産は集約して、最高に有効活用する。そのためには、都市再生機構の改革が必要だ。これが具体的で、最もわかり易い資産活用による経済政策の目玉になるだろう。詳細は別の機会に。

金融資産は当然重要だが、これも長くなるので、別の機会に。エッセンスは、公的関与する金融資産はリターンが低くなるので、国債残高を大幅に削減し、別の形で民間セクターに資金を流す。その担い手がいなければ、それは都市再生機構のように、実質政府系機関を改革し、主体として使うことになる。これと都市再生機構の改革で、十分、政策の目玉になるだろう。そして、これは公的年金の改革と連動させるのが理想だ。端的に言うと、公的年金は、完全積み立て方式、個人勘定、強制貯蓄型に移行し、移行過程のファイナンスを消費税と年金特別国債の発行で凌ぐ。そして運用の大幅改革を行い、それを上述の公的機関改革と連動させる。

人的資本、土地資本、金融資本の有効活用でかなり日本経済社会は見違えることになる。