野田政権誕生でボールは自民党に返された

2011年09月05日 13:34

各マスコミの行った世論調査で、野田内閣の誕生で、内閣支持率がV字回復していることが報道されています。日経と東京新聞が67%、JNN66.5%、読売65%、毎日新聞56%、朝日新聞で53%とそれぞれが高い支持率を示しました。たしかに鳩山内閣も菅内閣も発足当初は支持率が高くその後に失速しましたが、野田内閣の支持率の高さはこれまでとはかなり構造が違うという印象を受けます。
経団連の米倉会長が両手をあげて野田内閣への協力を表明したことが象徴するように、保守層、とくに自民党の支持層を取り込んでいるということです。日経の調査では自民党支持層の58%、読売の調査でも61%が野田内閣を支持しています。菅内閣の失速で逆転していた政党支持率も、民主党が伸ばし、自民党と並ぶ結果となりました。これはなにを意味しているのでしょうか。


思い出すのは小泉政権の誕生時のことです。自民党時代の政治の停滞が国民の不満となり鬱積していたために、期待が民主党に向かっていたのですが、小泉首相が「改革」を掲げ、それまで「改革」を主張していた民主党のアイデンティティとの同質化をはかります。

「自民党をぶっ壊す」というメッセージで、自民党の古い体質の政治を変えるのは民主党ではなく、小泉政権であることをアピールし、その期待を自らに引き寄せました。長期に停滞していた自民党の支持率を急回復させる見事な戦略でした。リーダーがチャレンジしてくるライバルと同質化する戦略を取り、差別性を失わせ無力化してしまいました。同じことが野田内閣の誕生で起ころうとしています。

鳩山内閣や菅内閣はほんとうに実行が可能か、どのように実行するのかの議論や展望もないままに、いわば未知数な政策課題を争点を持ち込んだのと比べ、野田内閣は、震災復興の促進、福島第一原発事故処理、震災復興財源問題、TPP問題など、財政再建など、コンセンサスをつくることが困難な課題が多いとはいえ、政策の焦点が絞られているなかでの内閣発足です。

野田政権はあきらかにリーダー戦略をとろうとしています。新しいビジョンや政策を掲げるのではなく、コンセンサスを求めながら、顕在化している課題の実行や解決に焦点を定め、課題を堅実に解決する姿勢であることが経済界や国民の安心感につながっています。おそらく官僚の人たちも同じでしょう。かつての自民党政権との違いではなく「安心感」、誠実な課題への取り組み、開かれた議論を通しての政策決定や政策の実行を国民は求めているのだと思います。

野田政権は、かつての自民党と変わらないという声もありますが、むしろ、実際には思想の違いで政党が争う時代ではなくなった現実を物語る政権の性格をとろうとしています。政党間の違いよりも、支持母体や選挙区の特性の違いで、政党内での違いのほうが大きいのが現実です。
おそらく今回の党人事や組閣を見ると、まずは党内の政策の違いを摺り合わせようという意図が見え、また野党との政策協議を重視する姿勢は、党内外でのコンセンサスの形成を重視しようとしていることを感じます。

そのことは、確かにかつての自民党が派閥均衡によってコンセンサスをつくってきた政治手法に近いのでしょうが、もし野田政権が大きな失策を行わないかぎり、自民党は、かろうじて残っていた「責任政党」「政策実行力」というアイデンティティを失います。かつて民主党が「改革」の旗印を失ったのと同じ状況が自民党にもやってくることは想像に難くありません。

そのことを印象づけるかのように、政治の力学に敏感な公明党が、野田政権へのトーンを自民党と微妙に変えはじめていることにも感じられます。

さて、自民党は、民主党政権が誕生してから、もっぱら民主党政権の政策実行力のなさと政治献金問題、発言の迷走などの敵失をつくことで民主党のイメージダウンを追及してきたという印象が拭えません。

かつて長期政権を握っていた政党が野党となり、どのようなポジションを取ればいいかの模索していた時期もありましたが、あいつぐ敵失で、それをつくことに終始してしまいました。不運なことに、民主党の迷走が、自民党を政策の党から、政局の党へと変えてしまいました。

実際、自民党の議員の人たちのブログを見ても、民主党は駄目だという批判ばかりで、では自民党はどのようなビジョンを掲げようとしているのか、この時代の閉塞をどう打開するのかの意見に踏み込んだものはほとんどなかったように思います。

つまり、自民党の支持率が上がったのは、また前回の参院選での勝利も、敵失によるものであって、自らのビジョンや政策で支持や共感を得たものではなかったというのが実態だったと思われます。もちろん議員立法で数多くの法案をあげたと、実務能力の優位を強調したのですが、それは国民には見えません。敵失を待ち、敵失をつくだけでは、ボールは相手の手のうちにあります。

国民の側からすれば、政党と政党が政策のコンテストを行い、支持されたものは与野党で協力して実行する、政権交代を求めるのなら、新たな政策の違いを打ち出し、それで競って政権につくという構図でしょうが、そんな理想通りにはならなくとも、対立するのなら、ライバルを叩くことではなく、なにが争点なのかの丁寧な提示であって欲しいものです。

議院内閣制、また強すぎる参議院という構造は、安定した政権を生み出すことに失敗してきましたが、それを変えることはよほどの安定政権でないとできないというジレンマを抱えており、政党のあり方に課題をつきつけています。

自民党がアイデンティティを失うと、みんなの党に大きなチャンスがやってきますが、かつての野党がやっていたような品のない政権批判ばかりではニッチな政党というレベルを超えることはできません。

国民の利益を守るためには、政権交代しても長期的な政策はぶれないことが必要です。しかも今の日本は、小手先で課題が解決できない、長期的に取り組まなければならない課題が山積みです。政党のあり方を変える政党というのが、政権の奪取には時間はかかっても正解かもしれません。野田政権が持続し、そのなかで自民党が変わる、あるいは基本政策で与党と差別化できる政党、ビジョンや政策を辛抱強く訴え続ける政党が伸びてくることを期待したいものです。

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大西 宏
株式会社ビジネスラボ代表

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