科学者の勘違い

村上 たいき

安全だと信じている誰かが複数人、身をもって証明してくれたら信じるよ。
sou_shium

以前の放射線に関する記事でいただいたコメントです。おそらく類似のコメントが他の方が書いた記事でも多く寄せられていると思います。放射線関連にかかわらず「そう言うなら、お前やれよ」のような議論の進まないコメントはWEBでは多いものです。しかし、よくよく考えると、このようなコメントは今回の件の本質なのかもしれません。


少し疫学上のことを紹介したいと思います。環境線量(今回のような事故がなくても普通にある線量)は、大雑把に言うと、宇宙からくる放射線によるものと、地盤からくる放射線があります。これらの線量は地域によって異なるのですが、インド、イラン、中国、ブラジルなどに線量が高いところがあります。だいたい高いところで100mSv/yearを超えます(最大260mSv)。これらの地域には、いろんな国の多くの研究者が行って、何度も調査をおこないました(疫学調査)。そこでガンや白血病の発症率の調査が行われていますが、非常に影響度が低く、かつ、それに見合うサンプル数が十分でないため他の線量の低い地域とリスクに差が見られませんでした(影響が無い証明にはなっていません。ただ、統計的に有意なデータが得られなかったという意味です)。

話は戻りますが、最初のコメントのように、何人かが福島原発のそばに行く意味はあるでしょうか?実は既に、国内の放射線に関わる大学・研究機関の研究者は、定期的に福島原発の周辺で、スクリーニング作業に借り出されています。疫学調査の話で説明させていただいたように、たかだか数十~百人が原発の近くにいっているという事実は科学的には何の意味も無く、安全の証明にはなりません。つまり、「科学者(安全だと信じている人たち)が原発の近くに定期的に行ってるぞ」っという事実は、科学者にとってどうでもいいことでしょう。しかし、一般の人々には意味のあることかもしれません。

上のような事実は安全証明にはなりませんが、一般の人々の安心材料にはなるかもしれません。安全と安心は異なるものです。そして「放射線の最大リスクが精神的な障害(sub-clinical)」(2006WHO,IAEA)ということを考えると、人々の健康被害を抑えるには「安心」を与えることが大事です。また過剰な不安は、民主主義国家の政策にも悪影響を及ぼします。

実は、科学者がくだらないと思っていること(でも実際の事実)が、意外にも日本の人々の生活を守ることに繋がったりしないでしょうか?少々甘い考えかもしれませんが、その想いをこめて、ここでこの事実を紹介させていただきました。

村上たいき モンテカルロblog