そもそもデフレって何なのか

池田 信夫

小幡さんへのお答えというか補足。実をいうと、今の標準的なマクロ経済学では貨幣的なデフレはありえないし、それを金融政策で是正することもできない。


ちょっとテクニカルになって申し訳ないが、ニューケインジアン(新ヴィクセル派)といわれる理論では、代表的家計による動的最適化の結果を自然水準と考え、価格が硬直的で自然水準から離れているのがケインズ的な不均衡状態だと考えます。

ここでは金融政策の目的は、価格の硬直性を緩和して自然水準に到達させることだから、すべて相対価格の調整であり、通貨供給で一般物価が変化するというメカニズムは存在しない。ニューケインジアン・フィリップス曲線ではGDPギャップと物価水準の関係を想定しますが、物価が変化するのも個別の市場で相対価格が均衡水準に調整される結果なので、金融政策の役割は金利の調整だけです。

小幡さん(というか渡辺さん)のいうように、デフレはヴィクセル的には自然水準への調整の遅れと考えるしかないが、理論的には金融政策によって価格調整が早くなることも遅くなることもない。だからデフレを是正できるのは、金利が自然利子率より高い場合に限られ、今のようにゼロ金利になるとお手上げ。ありうるチャネルは予想だけですが、それも時間軸政策のようなわずかな効果がせいぜいでしょう。

つまり政治家のみなさんが騒いでいるデフレという現象は、世界市場の統合の中で日本の価格体系が新興国に引き寄せられるという長期的な過程の一コマで、金融政策で止められるはずもないのです。もちろんリーマン・ショックのように一時的に自然水準との乖離が大きくなった場合は、通貨を大量に供給して資金繰りを支援する意味はありますが、もう今はありません。

こう考えると、中央銀行のできることは平時には非常に限られており、フリードマンも言っていたように、FRBを廃止してルールにもとづいて財務省が通貨供給すればいいのかもしれない。アメリカでは「ティーパーティ」がそういう主張をしています。むしろ中央銀行の本質的な役割は、有事の際にcash-in-advance制約によって協調の失敗が起きないようにすることでしょう。