欧州金融危機の本質 

小幡 績

繰り返しになるが、今回の欧州金融危機の本質は、ギリシャでもスペインでもイタリアでもない。

一番の事件が先週起きた。

ドイツ国債の入札の不調である。

なぜこれが本質的な問題か。

それは危機のステージが一歩進み、危機の核心が明らかになってきた事件ととらえられる可能性があるからである。


ドイツ国債は、欧州危機の深まりと共に、これまでは価格が上昇していた(利回りは低下)。

それは、ギリシャ国債に始まり、ポルトガル、スペイン、イタリア国債、しまいにはフランス国債までが、リスク回避というこで売られる中で、その資金の異動先として、安全資産のドイツ国債が選ばれてきたからだ。

ドイツ国債が値下がりすると何が問題か。

それは、リスク回避、質への逃避という投資行動から、バランスシート調整、とにかく投資総量を減らすという投資行動に変化した可能性があるということだ。

これの何が問題か。

長期的な金融市場拡大トレンドがついに終焉を迎える可能性があるからだ。

リスク回避により、より安全資産へ資金を移す。これは普通のことで、投資家は、この流れがどこへ向かうか、それをこの数年追ってきた。リスク意欲が高まれば新興国へ、回避となれば、米国債へ、そしてユーロ圏が危機に陥ると、ユーロの中では相対的にドイツが圧倒的に安全と言うことで、ドイツ国債に資金はシフトした。

これは単なるリスク回避行動で、投資ブームと停滞のサイクルの中での動きだ。今起きているのは、金融機関の資本毀損によるバランスシート調整、リスク資産を減らし、レバレッジを落とすという動きだ。いわゆる手じまいだが、ここがポイントだ。

この手じまいが、短期のサイクル的なものか、中期のトレンドか、長期の構造変化か、どれに当たるか、ということが重要で、これがこれからの金融市場の先行きを予想する上でのポイントとなる。

短期的に縮小サイクルに入ったのは間違いがなく、レバレッジを低くする流れが世界的に、そしてとりわけ欧州では加速するから、中期にも、5年から10年のタームでは、このトレンドはしばらく続く。問題は100年単位で構造が変化したかどうか、近代資本主義成立以来の金融市場の規模の継続的拡大、そしてその継続的拡大こそが現代金融市場の本質であったから、これが終わるかどうかが焦点となってくる。

もちろん金融市場というものはなくならない。しかし、現代金融市場は消失し、資本主義は変質する可能性はあり、それが今の焦点だ。

現象的に言えば、ドイツ国債から日本国債へ伝播したときに、これが、ドイツも日本もリスクあり、と見なされたからであれば、長期の変化は起きない。一方、これが、世界的な投資総量の減少で、資金調達を止め、とにかく投資を減らすと言う動きだとすると、世界金融市場は新しい段階に移動することになる。

それを見分けるには、米国債も含めて、すべての国債が同時に下落した場合だ。それが終わりの始まり、始まりの始まりとなるだろう。