富士通元社長事件判決と上場会社の反社対応実務への影響 --- 山口 利昭

2012年04月12日 10:36

ニュースでも、皆様ご承知のとおり、富士通社の元社長の方が同社の役員を相手に損害賠償を求めていた裁判において、本日(4月11日)東京地裁は元社長(原告)の訴えを棄却する判決を出しております。

この裁判は、元社長さんの(富士通の取締役としての)地位確認を求めるものではなく(こちらはたしか仮処分事件で、元社長(債権者)側の申立てが却下され、決着がついているはず 参照富士通のリリース)、取締役の地位を喪失したことを前提としたうえで、「富士通役員のいい加減な調査によって、自分は取締役を辞任させられた、ガセネタで辞めさせられたんだから、役員の辞任勧告は不法行為であり、損害賠償請求権を行使する」というものであります。


まだ判決文を読んでおらず、ニュースの記事のみからの推測でありますが、地裁は以下のような思考過程で原告の請求を棄却したのではないかと思われます。つまり、

元社長が子会社売却にあたり業務に関与させた法人(ファンド)について、反社会的勢力か否か、その真実性については、辞任勧告の際、原告・被告らの間で問題とはされていなかった。つまり、被告らの辞任勧告に至った理由の説明を原告が受け、風評の芳しくない当該取引先との交際を控えること(関係解消)を求められたにもかかわらず、元社長がこれに応じようとしないことから、その解決方として自ら同社の役員辞任の道を選択するのはやむをえないとして自らの意思で辞任したものであり、当該法人が真に反社会的勢力であるということから、辞任を決めたわけではない

被告らが、本当に「いい加減な」調査によって元社長の取締役辞任を求めたのであれば、虚偽事実を告げて辞任を強要したものと同様に評価できるのであるから、被告らによる不法行為責任が発生する余地がある。しかし、証券会社からの情報提供があり、これに基づき、被告らも独自に信用ある調査会社に依頼をして、そこでも問題取引先との情報提供があったのであり、これらの情報をもとに辞任勧告をすることには正当な理由がある。

被告らは上場会社の役員であるから、もし企業として反社会的勢力との関与が認められた場合には上場廃止となるリスクに直面するものであること、また近時の暴力団排除条例の施行など社会の目が非常に厳しくなっている状況において、企業のレピュテーションリスクを回避することは喫緊の課題であることから、たとえ当該法人が反社会的勢力と断定できない場合であっても、それなりに正当な理由がある場合に「企業として最大限度のとりうる方法を用いれば」違法とはいえない。これは蛇の目ミシン最高裁判決の趣旨にも適う考え方である。

といったあたりが裁判所が元社長の請求を退けた判断過程ではないかと(もし私の推測に誤りがありましたら、当事者の方でも結構ですので、指摘していただけますと幸いです。すぐに修正させていただきます)。

本件判決は、おそらく上場会社だけでなく、上場準備の段階にある企業においても(参考にすべき)重要な判決になるのではないでしょうか。上場会社の役員の属性や、訳あり関係者とのお付き合いに悩んでおられる会社は結構多いと思います。ひとつ有事の対応を間違えますと、上場廃止になったり、主要な取引先から取引の継続を拒絶されたり、さらには反社会的勢力との断絶を遂行できない役員の善管注意義務違反が問われてしまうわけであります。さらにオリンパス事件でも当初疑惑が報じられ、明らかになりましたが、「反社勢力とのつながり」という話題は国内だけでなく、海外でも大きな話題になってしまうわけでして、CSRの観点からも非常にマズイ状況に追い込まれてしまうわけです。まさに企業の自浄能力を発揮してレピュテーションリスクを最小化しなければならない局面であります。

ただ、こればかりはトップシークレット事項であり、なかなか外部の人に相談できるものでもありません。富士通社の場合も、元社長の突然の辞任について、当初「健康上の理由により」として適時開示されていましたが、後日「ふさわしくない取引を行ったため」と訂正し、東証から厳重注意を受けたことからも理解できるところかと思います。

企業としては、役職員の素性や「ふさわしくない者との関係」をどこまで調査したうえで行動に出る必要があるのか、調査の結果、グレーの状況で行動に出て良いのか、いやむしろ行動に出なければ善管注意義務違反になるのではないか・・・というあたりの限界を探るには参考になる事例ではないかと。基本的には、一般の上場会社としては、役職員の反社チェックを「できる範囲で」行えば、反社対応を実行しても違法ではない、いやむしろ、できる範囲での反社対応はしなければならない、ということかと思います(ここにまた、公表義務あたりの問題がからんでくるのかと。これは私の直感的な印象です。このあたりは、後日発表されると思われます著名な法律実務家の方々の法律雑誌での論文等で勉強させていただきたいと思います)。

本件は役員個人の不法行為責任が問われた事件でありますが、仮の地位を定める仮処分(地位確認請求事件)などで会社自身が被告(債務者)となるケースでも参考になるのかもしれません。おそらく控訴され審理は続行されるものと思いますが、いずれにしましても、地裁の判決文をぜひとも読んでみたいものであります(なんとか入手できないものかしら……)。


編集部より:この記事は「ビジネス法務の部屋 since 2005」2012年4月12日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった山口利昭氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はビジネス法務の部屋 since 2005をご覧ください。

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