年金の積立方式はインフレに弱いという「永田町・都市伝説」 --- 鈴木 亘

2012年04月13日 07:30

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橋下徹大阪市長率いる大阪維新の会が提案している「年金の積立方式移行」に、最近、国民の関心が集まっているように思われる。しかし、年金の積立方式に関しては、既得権を奪われる厚労省が絶対反対の立場をとっており、間違った情報を大量に政治家、国民に流しているために、残念ながら、非常に誤解が多いのが現状である。

積立方式に関する誤解は数々あるが、全く事実無根であるにも関わらず、国民や政治家に固く信じられているのが、「年金の積立方式はインフレに弱い」という俗説である。


厚労省の教育が行き届いているせいか、特に、自民党と民主党の政治家に、この説を固く信じている人が多い。先月、「ミスター年金」長妻元厚労相に呼ばれて意見交換をした際も、長妻氏の口からこの俗説が飛び出して、私は心底驚いてしまった。

しかし、これは、日本の霞が関、あるいは永田町だけに蔓延る「都市伝説」である。
経済学的には全く間違いであり、「年金の積立方式はインフレに弱い」等と言う事実は、金利が自由化した現代においては、全く存在しない。

世界中で、厚労省やその取り巻きの「年金村」の学者・有識者、厚労省ポチのマスコミ記者達のみが、「インフレが起きると積立金の価値が目減りするから積立方式は現実的ではない」という主張を続けている。こういうバカげた常識が霞が関と永田町に通用していると言っても、学習院大学の同僚の経済学者は、なかなか信じてくれないほどだ。

先日、ニコニコ動画に出演した際も、共演した池田信夫先生や小黒一正先生は、「いくらなんでもこんなことを今どき信じている政治家は、まさかいないでしょう」と、全く取り合ってくれなかった。しかし、私がお会いした政治家の実に9割以上は、厚労省の説明を鵜呑みにして疑いすらしない。世も末なのである。

確かに、戦後すぐや70年代初めのオイルショックの時期までは、金利が国に規制される「規制金利」の時代であったので、インフレで積立金の価値が目減するという現象がみられた。例えば、金利が5%で固定されているのに物価上昇率が10%になれば、マイナス5%の実質金利となるから、銀行預金や積立金の価値は5%ずつ目減りする。

しかし、今は、そのような規制金利の時代ではなく自由金利の時代である。もし、インフレ率が10%になれば、金利はそれを織り込んで5%+10%で15%に引き上がることになる。これは経済学では、フィッシャー効果として良く知られている現象である(正確には、長期金利が「期待インフレ率」に連動する現象)。

つまり、インフレ分を織り込んで市場金利が上昇しなければ、だれも預金をしなくなるし、誰も国債を買わなくなる。銀行などの金融機関が市場競争をしている中では、そんなバカな金利は放置されず、金利はインフレ分だけ必ず上昇するのである。

例えば、企業年金は全て積立方式だが、インフレが起きて目減りして大変だという話を聞いたことがあるだろうか。私は全くない。銀行預金だって一種の積立金であるが、インフレで銀行預金が目減して暮らしが大変だと言う話は、自由金利になってこの30年ほどは無いはずである。

また、デフレはインフレの逆であるから、デフレだと積立金、銀行預金の価値が上がるということになってしまうが、「デフレで銀行預金が増えてうれしい。ウハウハだ。」という話を聞いたことがあるだろうか。私は全くない。現在は、自由金利の時代であるから、金利がデフレ分を織り込んでほとんど0に近い水準に下がってしまっているので、規制金利下とは異なり、預金の価値は増えないのである。

さて、冒頭のグラフは、金利と物価の関係をみたものであるが、金利自由化が始まった70年代後半以降、両者の関係は良く連動していることがわかる。厚労省が主張する「積立制度はインフレに弱い」という俗説が間違っていることは一目瞭然である。

厚労省が語る都市伝説を真に受ける自民党・民主党の政治家が未だに大多数であることは、彼らの年金リテラシーの低さを表していると言えるが、年金問題がこれほど大きな政治課題になっている今、本当に困ったことである。

「老後の生活資金は、インフレに弱い積立方式では価値が保てず不安であり、賦課方式を保つべきだ」等と公言する政治家たちは、老後のための資産として、自分たちは銀行預金を全くせず、子作りや養子受け入れに励んでいるのであろうか。もし、せっせと銀行預金をして、子ども・養子を増やしていないのであれば、それは論理的に破綻した行動であり、言行不一致であることに、早く気付くべきである。


編集部より:この記事は「学習院大学教授・鈴木亘のブログ(社会保障改革の経済学)」2012年4月11日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった鈴木氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は学習院大学教授・鈴木亘のブログ(社会保障改革の経済学)をご覧ください。

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