反社チェックの困難さをカバーする内部統制システムの運用(富士通事件の教訓) --- 山口 利昭

アゴラ編集部

4月11日に東京地裁で出されました富士通元社長辞任事件に関する判決でありますが、当ブログをお読みの方からのご厚意により、なんとか報道機関向けの判決要旨を入手することができました。(判決要旨と骨子で合計4枚)どうもありがとうございました

昨日、ニュース等の内容から判決の思考過程を推論いたしましたが、争点こそもうすこし多岐にわたるものの、主要な部分においては概ね当たっていたようです。辞任を余儀なくされた前社長側としては、そもそも富士通社の子会社売却にあたり、関与させていたファンドが本当に反社会的勢力に該当するのかどうか、その真実性に焦点をあてたいのですが、会社側としては、そもそも本当に反社会的勢力に該当するか否かが問題なのではなく、限りなくクロに近いグレーであれば、企業の信用を維持する必要があり、関係者の排除を求める行動を起こすことは当然のことと反論しております。


そもそも、子会社売却に関与していた会社について「評判のよろしくない会社」と富士通側の役職員が知ったのは、単純にネット上の書き込み等からだそうです。そこが調査の発端となり、富士通側は①主幹事証券会社からの情報提供、②富士通社が依頼したふたつの調査事務所の調査報告2通により、ネット上の噂はかなりの確率で真実との心証を得たそうであります。

そして富士通側の大多数の取締役、監査役が、このような心証を抱くに至った以上は、内部統制システムの基本方針に基づき、整備されたシステムの運用義務の一環として、その排除に向けた諸施策が講じられたことになります。平成19年に内閣府より「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」と題するガイドラインが公表され、反社的勢力排除のための施策については内部統制システムの一環であることが、明確にされました。それから5年が経過し、本判決は、まさに反社会的勢力との関係が疑われた上場会社の場合には、構築・整備された内部統制システムの運用義務の問題として有事対応が承認される、という理屈を示したものと言えそうであります。内部統制の「整備」ではなく「運用」に光があてられたところに意義があるのではないか、と。

なお、一般論としてではありますが、反社会的勢力とのつながりが疑われる役職員に対する警告の出し方(不正調査の方法)については、また別途むずかしい問題があるのも事実です。そのあたりは本件ではどうなのか、これは判決文を読まなければわからないところであり、興味深いところです。企業のレピュテーションリスクの管理が注目され、また反社会的勢力と企業との断絶が厳しく要請される今日において、疑惑の目を向けられた対象者の人権保障と、重大なリスク管理をしなければならない企業の利益とのバランスをどうとるべきなのか、本件判決には、そのヒントが語られているように思えます。


編集部より:この記事は「ビジネス法務の部屋 since 2005」2012年4月13日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった山口利昭氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はビジネス法務の部屋 since 2005をご覧ください。

※編集部注:リンク先はPDFファイルです。