気になる米国の労働参加率漸減 --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

先月の雇用統計発表の際、市場の期待の20万人増に対して実増12万人に留まり、がっかりさせましたが私の当時のブログには「市場は欲張りすぎで程よい調整」と書かせていただきました。

今日発表になった4月の雇用統計はやはり市場予想16~17万人増に対して11万5000人に留まったことからダウは大きく下落、市場関係ニュースでは「アメリカ経済は強気か弱気か」といった見出しすら見受けられます。


私は4月半ばのブログで4月前半の雇用の行方は良くないのであまり期待できないと指摘していたにもかかわらず市場予想が16万人と膨れ上がっていたのにはやや驚いています。今は踊り場ですからこれぐらいの調整は想定どおりと考えるべきかと思います。

一部の解説にはアメリカの経済がさほど悪いわけではなくゆっくりと回復しているとしてあまり大きな懸念は抱いていません。実際、ダウは4年数ヶ月ぶりの高値をつけたばかりですので今月の雇用統計でとやかく言うことはないと思います。但し、経済活動は日本化している可能性がありますので緩慢な状態が延々と続くとみています。

むしろ、私はLabor Force Participation Rate (労働参加率)の下がり具合の方が注目に値すると思います。アメリカ人がどれだけ働きたいかというのを示す率で4月は季節調整値で63.6%と1981年ぶりの下落となりました。

これを長い時系列で見るとはっきりしたトレンドが見えます。

2000年代を通じて大体66%台を維持していたのが明白な下落ラインに変化したのが2008年10月。この月は66.0%でしたがその後、ゆっくり階段を下りるように下がり続け今の63.6%まで降りてきています。理由は二つでリーマン・ショックを境にした厳しいレイオフと雇用環境の悪化、また、アメリカのベービーブーマーの労働市場回帰へのギブアップということだろうと思います。

ブーマーにとって2008年はほぼ60歳前後ですのでハードルが高くなった労働市場にはもう手が届かない、と思ってしまっている方が相当出てきているということでしょうか。日本でも2007年問題などと称されましたが、技術継承などで5年程度延長したケースも多く、うまくワークしたと思いますがいよいよ今年から本格的に労働参加率が下がるのではないかと見られています。

以上によりアメリカの場合、失業率は今回も1ノッチ下がって8.1%となっていますが、労働参加率の低下は経済全体にはマイナスですから正直あまり喜ばしいことではありません。アメリカが本格的な高齢化社会に突入するとすれば消費などの影響はボディブローのようにジワッと効いてきます。、本来であれば失業率が一定水準まで下がった段階で雇用機会の拡大が生じ、ギブアップ層の労働市場への復帰が望ましいのは言うまでもありません。

今日の株式市場の下落はむしろ週末のフランス、ギリシャの選挙を控え市場参加者がややナーバスになっていたとみるほうが正しい気がします。ただ、フランスの選挙結果は市場ではほぼ織り込み済みですからギリシャで与党が過半数を取れない状態が生じなければとりあえずはダイジェストできるのではないかと思います。

2012年の世界経済は引き続き膠着状態と緊張状態が続くような気がいたしております。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年5月5日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。